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アフガニスタン情勢 プーチン氏が政治利用<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 ロシアのプーチン大統領が、アフガニスタンにおける政治的激震を自らの権力基盤を強化するために最大限活用している。

 <ロシアのプーチン大統領は(8月)22日、イスラム主義組織タリバンが掌握したアフガニスタンからの避難民をロシア周辺の中央アジア諸国に一時滞在させるという一部欧米諸国の計画に反対した。/タス通信によると、プーチン氏は与党指導者らに「西側自身が旅券(ビザ)なしでの受け入れを望んでいないのに、避難民をわれわれの隣国にビザなしで送ることができるということなのか」と述べ、問題解決のアプローチとしては屈辱的だという考えも示した。/

 また、「過激派が難民を装ってロシアに現れることを望んでいない」と懸念した。/ロイターは先に、米国に協力したアフガン人の一時滞在先を確保するため、同国が各国と秘密裏に交渉したと伝えた。/ロシアは旧ソ連の中央アジア諸国にビザなし渡航を認めている>(8月22日「ロイター」)。

 ロシアはアフガニスタン内に約5千人の過激派「イスラム国」(IS)の戦闘員がいるとみている。ISの戦闘員はタリバンが中心となって形成される「アフガニスタン・イスラム首長国」には参加しない。ただし、タリバンはIS戦闘員を庇護(ひご)する。IS戦闘員は、中央アジアに武力によって拠点を確立しようとしている。

 中央アジアにISの拠点ができれば、そこからロシアの北コーカサス地域、タタールスタン、バシコルトスタンなどのイスラム教徒が多い地域に拠点を作ろうとする。また、モスクワで最も多いのはロシア人であるが、2番目はタタール人だ。その意味で、モスクワはキリスト教徒(ロシア正教徒)、イスラム教徒、ユダヤ教徒が混在する巨大都市なのである。

 中央アジア諸国とロシアの間には査証免除協定があり、出入国管理も緩い。ISが難民にテロリストを紛らせるのは常套手段だ。その意味で、プーチン大統領が「過激派が難民を装ってロシアに現れることを望んでいない」との懸念を表明したのは当然のことだ。

 しかし、中央アジアへの難民の流入が認められないとすると、米軍に協力したアフガン人はタリバンによって拘束、拷問され、場合によっては殺害される。

 そのような様子をプーチン大統領は、アレクセイ・ナワリヌイ氏を支持するロシア国民に見せて「アメリカに期待してもリスクが高い。いつでもアメリカの都合によって切り捨てられ、命を失う危険がある。外国勢力とつながった自分の国を裏切るようなことはしないといいと思うよ。タリバンでもロシアでもアメリカでも国家の本質は変わらない。自分のことしか考えていない」というメッセージを伝えているのだ。
 アメリカにアフガン人協力者を最後まで守ることができないという現実を見せられて、西側の民主派NPO、NGOなどとの関係にロシア人は慎重になると思う。アフガニスタンの政治的激変でプーチン大統領は裨益(ひえき)している。

 国家はエゴイスティックな存在だ。この現実を沖縄も真摯(しんし)に受け止めるべきだ。日本も米国も自らの利益のために沖縄を切り捨てる可能性があることをわれわれは常に認識しておく必要がある。今、日本人、米国人と正面切ってけんかをしても、沖縄にとって有利な結果にならないので慎重な対応が必要だが、腹の中では「こいつらは当てにならない。沖縄の未来はわれわれ沖縄人の手で切り開く。われわれとわれらの子孫は沖縄人の手で守る」という気持ちを固めておかなくてはならない。

(作家、元外務省主任分析官)