宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」沖縄風に 演者4人の個性が交錯


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
ゴーシュの姿で出演者全員が集まったフィナーレ。(左から)平野史子、亀甲谷宝、児玉真理、仲里綾香=8月26日、那覇市のひめゆりピースホール

 エーシーオー沖縄が那覇市のひめゆりピースホールで8月23日から28日まで、「Gauche(ゴーシュ)~フェンスの向こう~」(藤井ごう脚本・演出)を上演した。宮沢賢治の小説「セロ弾きゴーシュ」を題材に、言葉を使わずに表情や動きで物語を伝えるノンバーバルを意識して制作された作品。4人の出演者が、互いの個性を生かしたパフォーマンスで楽しませた。

 原作の「セロ弾きゴーシュ」は、町の音楽会を前に、自身の技量に悩むチェリストのゴーシュが、家を訪ねてくるネコ、カッコウ、タヌキ、ネズミとの交流を経て成長し、音楽会を成功させる物語。「Gauche―」では、ゴーシュは「フェンスに分断された町」の外側におり、家を訪ねる動物はフェンスの内側にいる、という設定が加えられた。

家を訪れたカッコウ(右・平野)に請われるままセロを弾くゴーシュ(児玉)

 最初の場では、汗水節に乗せて、ダンサーの亀甲谷宝はアクロバティックに、タレントの平野史子は艶っぽく、琉球舞踊家でもある仲里綾香は琉舞の調子で、三者三様の踊りを披露した。宮沢賢治と思しき姿の児玉真理が登場すると、舞台には宮沢賢治の詩や書簡の言葉があふれ出す。背景の黒壁にも、「人間世界の修羅の成仏」や「日本復帰」、「県民投票」などの言葉が演者によって書かれた。フェンスに行く手を阻まれる宮沢賢治の描写の後、物語の中盤は原作同様の筋を追った。

 ネコを亀甲谷、カッコウを平野、タヌキを仲里、ネズミを人形美術を得意とする児玉が演じ、ゴーシュも動物ごとに4人が入れ替わりで演じた。それぞれの得意分野を反映させた演出が、舞台に抑揚を生み、物語の世界へと観客を没入させた。

 芝憲子の詩「骨のカチャーシー」と藤井の詩「壁のない世界を」を元にした楽曲を、くによしさちこ、伊波はづき、寺田英一の演奏と共にチアキが歌い舞台を彩った。
 (藤村謙吾)