観光との両立に寄与?感染防止と矛盾?ブルーパワープロジェクト、識者の見方


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沖縄に到着した観光客らに取り組みを呼び掛ける「オキナワブルーパワープロジェクト」の関係者ら=8月、那覇空港

 民間企業や経済団体が主体となって、新型コロナウイルス感染拡大防止と観光振興の両立に取り組む「オキナワブルーパワープロジェクト」は、8月1日の開始から1カ月以上が経過した。来県前にワクチン接種を済ませるか、PCR検査の陰性証明を掲示した観光客に青いリストバンドを配り、協力店舗で特典を受けられる。9月末までの予定だが、参加店舗などの要望を受けて延長も検討されている。一方で、緊急事態宣言が続く中で観光客にインセンティブ(動機付け)を与える方法や、転売問題に対して「感染拡大防止と矛盾するのではないか」と批判的な意見もある。群星沖縄臨床研修センターの徳田安春センター長と、観光レジリエンス研究所の髙松正人代表に、医療と観光危機管理の立場からプロジェクトの意義や今後の課題などを聞いた。 (聞き手・沖田有吾)

安心の可視化に意義 髙松正人氏(観光レジリエンス研究所代表)

髙松 正人氏

 新型コロナウイルスのワクチン接種済みの人やPCR検査で陰性を証明した人に対してインセンティブを与えるという考え方はすごく良いと思う。両方ともしていない人に比べ感染している可能性は低く、他の人に感染させるリスクは明らかに低い。現在の法令では、県外から沖縄を訪れる人を止めることはできない。よりリスクの少ない人が来訪する割合を高めるような取り組みは必要だ。

 旅行者本人の安心もそうだが、受け入れる側の県民や県内の医療従事者の安心につながることが一番重要だ。リストバンドで「この人が安心な旅行者だ」ということを「見える化」することには意義がある。

 転売のようなことはない方がいいが、どうしても出て来てしまうことではある。PCR検査の場合は、検査から時間がたつにつれて陰性証明の意味が薄れる。数日ごとに提供するリストバンドの色を変えるなどの対策を取れば、対応はできる。小さい問題点を追うより、マクロで意義を考える方が実効性があると思う。

 行政のワクチンパスポートのような制度では、ワクチンを受けられない人への機会均等の考え方から、例えば学校行事では活用できないなどの制約がある。ブルーパワープロジェクトは民間主導、県全体での取り組みとしてモデルケースになるかもしれない。医療と連携すれば県民の安心により強くつながるだろう。

 ただ、私自身も沖縄を訪れた時に配布を受けたが、実際には特典をほとんど利用していない。他のサービスやクーポンの特典と同じような内容では、インセンティブが弱いように感じる。アイデアは良いが、実効性という意味ではもう少し大々的にやっても良いかもしれない。

徳田安春氏(群星沖縄臨床研修センター長)

徳田 安春氏

 県保険医協会として、沖縄に来る場合には全航空便と船便で、到着72時間以内の検査陰性か新型コロナウイルスワクチン接種済みの証明を必須化するようにと提言している。その意味で、オキナワブルーパワープロジェクトのように民間でアイデアを出して取り組んでいることは良いと思う。

 ただ、時期的には、感染が拡大している状況では、アクセルとブレーキを両方踏むことになりかねない。対象ではない旅行者にも、旅行して大丈夫という印象を与えてしまっていないかについては心配だ。

 インセンティブが与えられることでワクチン接種者や陰性を証明した人が増えることはいいが、どのくらい広がるのか、効果的に機能するのかがポイントだ。接種や検査を受けておらず本来は対象にならない人が、転売で入手することがないような仕組みを作ることは必要になってくる。

 世界的には、ワクチン接種が進んでも感染者が増える事例が報告されている。今後、これまでよりもさらに感染力の強い変異株が登場することも、十分考えられる。経済回復と感染拡大防止を両立するためには、検査体制を拡充して適切な規模で定期的にスクリーニングしていくことが求められる。

 新規感染者数などの指標が減るだけで緊急事態宣言を単に解除するのみでは、またこれまでのようにリバウンドを繰り返してしまう。県としても、出口戦略として、旅行や飲食店、イベントなどの利用者にPCR検査や抗原検査を原則義務化するなど、検査を徹底することが求められる。