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日本の諜報機関 優れた予測分析を発揮<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 北朝鮮が11、12日に新型の長距離巡航ミサイル、15日に弾道ミサイルの発射実験を行った。いずれも国連安全保障理事会決議に違反し、北東アジアの緊張を高める危険な行為だ。日本政府が北朝鮮を非難し、抗議したのは当然のことだ。

 日本は優秀な人工衛星と電波傍受システムを持っている。北朝鮮がミサイルを発射する兆候は衛星によりつかんでいた。発射と着水についても電波傍受でリアルタイムで情報を得ることができた。これとともに重要なのが首相官邸が8月末にロシアから「北朝鮮のミサイル実験再開が9月中に行われる可能性がある」という情報を得ていたことだ。

 実を言うと筆者も同様の情報を8月末にクレムリン(ロシア大統領府)筋から書面で得ていた。そこには、8月に平壌で金正恩朝鮮労働党総書記が出席する特別会議が2度行われた事実が記されたのに続いて、こんなことが書かれていた。

 <(第1回の)特別会議の後、多くのメッセージが発せられた。その一つが金正恩の妹・金与正朝鮮労働党副部長からのもので、彼女は米韓共同軍事演習は北にとって脅威だけでなく、ある種のレッドラインであると宣言した。「米国と韓国は、我々の度重なる警告を無視して、危険な軍事行動の準備を進めている。これは我々の国家安全保障に重大な脅威を与えるものだ」「朝鮮半島に平和を実現するためには、米軍が韓国から撤退することが必要だ」。
 その後、金正恩は特別会議を開き、北朝鮮による対応が議論された。複数筋によると、金正恩は、米国と韓国に対して、米韓共同軍事演習によって対話の道が閉ざされたことを示すため、北朝鮮のミサイルと核プログラムを再開させる時が来たと明言したという。北朝鮮の本気度を示すため、ミサイル実験の再開は早ければ、9月にも行われる可能性がある。そして、核プログラムは、一部が凍結されていたので(破棄はされていない)、その再開には3、4カ月の時間が必要だ。再開されるかも知れない>。

 この情報はヒュミント(人間を通じたインテリジェンス)によるものだ。ロシアは平壌に大使館と国営タス通信の支局を持っている。これらのチャネルを通じて、他国が持っていない北朝鮮政権中枢部の情報を得ることができる。またモスクワの大統領安全保障会議の分析部局やSVR(対外諜報庁)にも北朝鮮に通暁した専門家がいる。首相官邸はロシアともインテリジェンス分野での協力している。

 内閣は衛星で北朝鮮の情勢をウオッチするとともにロシアを含む主要国のインテリジェンス機関や研究所から入手した情報を含め、近未来に北朝鮮が新型ミサイルの実験を行うことを予測していた。

 政府が持つ情報は全て内閣情報調査室(内調)に集約され、その中で確度が高い情報は国家安全保障局(安保局)に送られる。今回もこの仕組みがきちんと機能していた。過去数年、内調の能力が向上したことには、主要国のインテリジェンス機関も注目している。

 最近ではアフガニスタン情勢や北朝鮮のミサイル発射実験などについて、内調は優れた事前予測分析を行った。日本のインテリジェンス機関は強い独立性を持っている。情報に関しては、米国の見方をうのみにせず、多面的に情報を収集し、自ら分析して判断している。日本の政局は混乱しているが、内調や安保局は、情報によって国家と国民を守る作業を淡々と続けている。

(作家・元外務省主任分析官)