辺野古 つないだ命 警戒船男性が遺した犬 基地反対市民、飼い主探し奔走


社会
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高木光介さん(右)と恵子さん(左)にハナを託す相馬由里さん(中央)=8月22日、伊丹空港

 「命に立場は関係ない」―。米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、抗議行動を展開する市民と向き合う警戒船の業務を担ってきた50代男性漁師が7月に亡くなった。男性は2匹の犬を飼っていて、死後しばらくは引き取り手が見つからなかったが、9月初旬までに新たな飼い主が見つかった。2匹の命をつなぐため、奔走したのは新基地建設に反対する市民だった。

 辺野古で暮らしていた男性が飼っていた2匹は雌の「ハナ」と雄の「サンダース」。いずれも3歳ぐらいで、男性が野良だった犬を保護して育てていたという。男性の死後、親交があった相馬由里さん(43)=名護市=は2匹が気になって様子を見に行った。残された家族が飼うことが難しくなったと聞き「SOS」「愛情を持って接してあげられる方連絡ください」などとSNSなどで引き取り手を募った。

 相馬さんは新基地建設に抗議する船の船長を務めたこともあり、警戒船に乗る男性と海上で相対した。それでも男性は「反対派頑張れよ」と刺身を持ってきてくれたり、「あそこにカメがいる。助けないと」と船上から声を掛けてくれたりした。「海のこと、命を大事にする人だったかも」。犬好きの“同志”の男性への思いを巡らせる相馬さん。過去に男性から犬を引き取っていて、今も育てている。

 命を大切にする相馬さんの思いは人々を動かした。

 琉球犬の雑種とみられるハナは、抗議活動で辺野古に通っていた京都府の川口真由美さん(46)を通じて、同じく京都府で暮らす高木光介さん(60)、恵子さん(63)さん夫妻に引き取られた。相馬さんは自ら京都などに足を運びハナを託した。高木さんは「思いを感じた。大切にしたい」と語った。

 引き取り手を募ったことで、全国各地から善意のカンパも集まった。相馬さんは「2匹のフィラリア症(犬糸状虫症)の治療費や予防接種代、渡航費などに活用できた」と感謝した。

 サンダースは、田丸正幸さん(52)=東村=を通じて、本島中部の人に引き取ってもらうことになった。ただ、受け渡しに行くと「思っていたより大きい」とやんわり断られた。相馬さんと田丸さんは意気消沈して帰路に就いた。

 途中、金武町のカフェに立ち寄ると、たまたま店に来ていた水内志帆さん(27)=金武町=がサンダースに興味を示した。偶然だったが、とんとん拍子でその日のうちに引き取ってもらうことになった。水内さんは「犬を助けたいと思っていて、たまたまだけど良かった。死ぬまでずっと一緒に暮らしたい」と声を弾ませた。サンダースは今、水内さんと一緒に海の近くで暮らす。

 「残されたワンコをつなげられたよ」。相馬さんは2匹に新しい家族ができたことを男性の四十九日に報告した。立場を超えた人々が2匹の命をつなげた。相馬さんは2匹が元気に過ごしていくことを願い続けている。 

(仲村良太)