悪化する米仏関係 米欧同盟の弱体化も<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 フランスが米国とオーストラリアに対して怒り心頭に発している。

 <米英豪3カ国の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」創設で、オーストラリアに潜水艦共同開発計画を協議なく破棄されたフランスが米豪から大使召還を決めたことを巡り、フランスのルドリアン外相は18日「(米豪の)振る舞いは、同盟内ではあり得ない。重大な危機だ」と警告した。国営テレビの番組で語った。/(中略)米国からの大使召還は「仏米関係史上初めてで、重い政治的行為だ」と説明した>(19日本紙電子版)

 オーストラリアは非核化政策をとってきた。そのため原子力潜水艦を持たないことを国策としていた。オーストラリアが購入する次期潜水艦として日本のそうりゅう級ディーゼル潜水艦の購入が検討されたこともある。この可能性を念頭に置いて日本は武器輸出3原則を緩め、潜水艦のオーストラリアへの販売を可能にした経緯がある。しかし、フランスの国家ぐるみの売り込みが成功した。

 しかし、オーストラリアはAUKUSに参加し、米国の原子力潜水艦を受け入れることにした。オーストラリアはフランスに対して契約破棄を9月15日に一方的に通告した。契約総額は約7・2兆円に上る見込みだったので、フランス経済に大打撃を与える。

 フランスはNATO(北大西洋条約機構)に加盟する米国の同盟国だ。フランスは、米国の対応を同盟の信頼関係を毀損(きそん)する深刻な出来事と見なしている。米国もオーストラリアもフランスがこれほど激しい反応を示すとは考えていなかったようだ。

 9月20日、∧ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、「われわれはフランスを含めた同盟国との関係に永続性があると信じている。新型コロナや気候危機など、世界が直面する最大の課題に関して欧州のパートナーと協力できることを楽しみにしている」と述べた∨(21日「ウオールストリート・ジャーナル」日本語版)とのことだが、この程度の報道官声明でフランスの怒りは収まらない。

 フランスは「一寸の虫にも五分の魂」という感じで、米国の外交政策には従わなくなる可能性がある。そもそも地政学的要因からフランスは米国ほどに中国の脅威を感じていない。これまでは米国との同盟関係を強化するために、対中包囲網の形成にフランスは協力していた。しかし、潜水艦の契約破棄をきっかけにフランスが米国の対中封じ込め政策に協力せず、独自の融和外交を中国に対して展開する可能性がある。

 この傾向に一部のEU諸国も連携する。この流れにドイツが加わってくるようなことになると、米欧同盟が著しく弱体化する。こういうことがあると米国が真の同盟相手と考えているのはアングロサクソン諸国(イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)だけのように思えてくる。

(作家・元外務省主任分析官)