悲劇に終わらぬ「北谷真牛」、新たな結末に再構成 安次嶺利美研究所


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北谷真牛(左から4人目・金城小百合)を奪われ怒る真壁里之子(左端・平田博之)をいさめる隠り思里(左から2人目・山内昌太)。おびえる乳母(左から3人目・宮里良子)とチラー(安次嶺正美)=9月24日、浦添市の国立劇場おきなわ

 玉城流七扇敏風利美の会安次嶺利美琉舞研究所による琉球歌劇「北谷真牛」(渡嘉敷守良作、田原雅之構成・演出)が9月24日、浦添市の国立劇場おきなわで開催された。同会の会員と劇団シアターテンカンパニーの団員らが共演し、「琉球歌劇」保持者の平良進、宮里良子、利美が脇を固めた。シンプルな舞台演出と、悲劇で終わらせない構成で新しい「北谷真牛」を演じた。県文化振興会主催のかりゆし芸能公演の一つ。

 美声で知られる北谷真牛(金城小百合)は、思い人の隠り思里(山内昌太)への恋文を誤って、真壁里之子(平田博之)に渡してしまう。もともと真牛へ思いを寄せていた真壁里之子は、夜陰に乗じて真牛の屋敷へ入ることに成功する。隠り思里だと思っていた男が別人だと気付いた真牛は、真壁里之子を帰らせようとするが、泥棒騒ぎのどたばたの中で、父(平良進)に男がいるとばれて怒りを買う。真牛は乳母(宮里良子)の仲裁でその場をしのぐが、そのころ恋文の件を知った隠り思里は命を捨てようとしていた。

 沖縄芝居は、背景幕や家の門など舞台美術も見どころの一つだが、障子のような舞台道具と照明、役者自身の演技で屋敷や山道などが表現された。そのため屋敷の外が舞台の序盤は、舞台道具の存在感が薄く思われた。しかし泥棒が真牛の屋敷に入る際には、舞台道具が屋敷の壁に見え、平良が現れて泥棒をいさめ始めると、掛け軸がかかる上等な床の間のようにも感じられた。次第に違和感なく物語の世界に観客を引き込んだ。

 三景の後半、小柄な利美と体の大きい知念賞の演じる盗っ人の掛け合いが笑いを誘った。不貞に立腹する平良の演技は舞台を引き締め、主人の怒りを納めようとする宮里の姿は人情を感じさせた。

 村娘と乳母の娘・チラー(安次嶺正美)が戯れる四景は、桃原和希が間の抜けた美童を演じ場を和ませた。正美は、桃原の間に合わせたやり取りで面白さをより引き出すなど、貫禄の演技を見せた。

 山から身投げするも死なずにすんだ隠り思里は、チラーに介抱され恋仲となるが、乳母の連れてきた真牛とよりを戻す。チラーはねたみ、真牛を殺そうと鎌を手に取るが、乳母の命がけの説得で思いとどまる。宮里との掛け合いでも、正美が存在感を示した。金城も美声を響かせた。

 最後は舞踊で華やかに終幕した。幕あいには利美を語り部役に、物語を解説した。
 (藤村謙吾)