沖縄の高校自転車界に新風 仕掛け人の実業団「ラバネロ」元選手・渋谷久路さんの指導法


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部員たちと共に笑顔を見せる沖縄工外部コーチの渋谷久路さん(後列左端)=17日、県総合運動公園自転車競技場

 沖縄県内の高校自転車界に新風が吹いている。16~18日に行われた県高校新人大会で沖縄工が台頭し、長らく続いてきた北中城の一強時代に揺さぶりを掛けた。仕掛け人は、昨秋沖縄工の外部コーチに就任した元名門実業団選手の渋谷久路さん(47)だ。豊富な経験を生かし、短距離から長距離まで選手ごとの特性に合わせた指導をしている。北中城と2校で競い合える環境をつくり、全体としてのレベル向上を見据える。

 東京都出身の渋谷さん。トップ選手を多く輩出する早稲田大で短距離選手として活躍し、実業団の名門「チームラバネロ」(東京)で中長距離に転向した。全日本選手権ではマディソンで5位入賞を果たしたこともある。

 10年ほど前に仕事の関係で沖縄に移住し、近年は普天間高で全国大会にも出場した息子の一斗さん(19)の指導に力を注いでいた。一斗さんが昨春に卒業すると、秋ごろに声が掛かる。「沖縄工で外部コーチしませんか?」。誘い主は北中城高の山本正英監督(県高体連自転車競技専門委員長)。県勢が全国で戦う力を付けるために「県内で競い合える環境がほしい」という山本監督の考えに共感し、「ぜひ」と快く引き受けた。

 山本監督が振り返る。「沖縄工は毎年人数もいるから、ずっと強くしたかった。渋谷さんは面倒見が良く、指導も的確。『逃がしてはいけない人材』と感じた」

 思惑は早速成果を挙げる。県高校新人大会では沖縄工の選手が10種目中2種目を制し、他の種目でも度々上位に食い込んだ。部員8人のライバル校が着実に力を付けていることに対し、山本監督は「北中城の選手も間違いなく刺激を受けている」と満足そうだ。

 県内にある自転車競技場は北中城村の県総合運動公園内のみで、那覇市にある沖縄工は土日しか通えない。渋谷さんが意識するのは「いかに短い時間で成果を挙げるか」。短距離選手には軽いギアで足を高速回転させる練習や重いギアでの筋力トレーニング、中距離選手には2~3キロのインターバルトレーニングで持久力を養う。

 新人大会のスプリント予選で、全国でも上位が狙える10秒761の県新記録をたたき出し、決勝で北中城の選手を破って優勝した謝花勇哉(沖縄工2年)は「タイムが伸びた一番の要因はコーチのサポート。走るコースなど戦術の幅も広がった」と感謝を口にする。「北中城に勝てたことはうれしい」と強いライバル心ものぞかせた。

 「2校で競い合い、県の競技レベルを上げていきたい。そうすれば、自転車をやろうとする子も増えるかもしれない」と楽しそうに今後を展望する渋谷さん。高校自転車界のカンフル剤となるべく、日々の指導に情熱を注ぐ。

 (長嶺真輝)