妊産婦の精神的不調、医師「理想にとらわれず相談を」精神科につなぐ課題は


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 妊娠中や産後の精神的不調、育児への不安で那覇市のオリブ山病院精神科を受診した妊産婦の多くが、不眠や気分の落ち込み、イライラなどの症状を訴えているほか、中には夫や子どもに暴言を吐いたり、暴力を振るってしまったりするケースも少なくない。同病院精神科で産婦人科医師としての経験もある宮貴子医師は「理想の母親像にとらわれず、自分の限界を超えそうなら相談してほしい」と呼び掛ける。

 宮医師が、同病院の外来で診療した妊産婦約100人を分析した結果、周産期の精神的不調は初産に限ったことではなく、妊娠や子育て経験があり、家族の支援があっても医療的ケアが必要になるケースもあるという。

初産が5割

 妊娠中や産後2カ月以内は産科施設からの紹介が多く、それ以降は自治体や助産院からの紹介が多い。約半数が産後うつ病と診断されている。産後に突然発症するケースだけでなく、妊娠前から生きづらさを感じてきた人や精神科の既往歴も関連するケースが多い。

 心身の疲弊に不眠も重なり、「子どもが寝ないのでイライラし、大声を出したり手荒に扱ってしまった」「子どもを傷つけたり落としたりするイメージが浮かんでしまう」など、不安や葛藤を涙ながらに訴えるという。緊急の対応が必要と判断した場合には、保健師とともに子どもを保育園に預けたり、自治体の養育支援事業につなげたりと、患者が落ち着ける時間を確保する。精神科認定看護師や助産師、保育士、心理士など他職種のスタッフのいる訪問看護ステーションとも連携し、対応している。

 患者は不安を抱えやすい初産の女性が5割を占めるが、2人目の経産婦も3割を占めるなど少なくない。1人目はなんとか乗り越えても、2人目以降は家事と育児で心身の限界を超えて受診するケースも多く「ワンオペの要素も大きい」という。妊産婦を支える夫も産後うつになるケースもあるため、夫婦で受診する場合は相談員が夫から話を聞くなど、細かく支援している。

治療の選択肢示す

 患者の症状悪化が予見される場合には抗うつ剤などを使用するが、精神科の薬に抵抗感を持つ患者や家族もいて、受診の遅れや医療につながらないこともある。その場合は、初回から薬を無理に勧めることはせず、治療の選択肢を説明し、漢方薬も活用しながら個々のケースに対応している。母乳育児の勉強をしている宮医師は「妊娠中や母乳育児中でも使用できる薬が多いことを知ってほしい」と語る。

 県内では妊産婦のメンタルヘルスに積極的に対応する医療機関は少なく、宮医師の下には、中北部の自治体からも患者が紹介される。新型コロナウイルスの流行後は、母親の孤立化や家庭内不和による不調もみられるため、宮医師は「妊産婦の悩みを時間外に聞く産婦人科医や助産師、地域で精神科につながっていないケースを抱える保健師の負担は相当なもの。精神科医療につなげる機会を増やすため、行政による地域、産科、小児科、精神科のネットワークを構築する必要がある」と課題を語った。
 (嘉陽拓也)