埋没した「辺野古新基地」 名護市長選へ戦略練り直しも<2勝2敗の舞台裏>5


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島尻安伊子氏の選挙事務所だった場所は、渡具知武豊名護市長や岸田文雄首相のポスターが貼られた事務所に衣替えしている=4日、名護市宮里

 「普天間の一日も早い危険性の除去と話してきた。3区で大変重い判断をいただいた」

 10月31日に投開票された衆院選で、名護市を含む3区で当選した島尻安伊子氏=自民=は報道陣に、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設についても信任を得たとの認識を口にした。

 島尻氏は選挙戦中、辺野古新基地建設について取材などで聞かれた際には答えたものの、演説で訴えた中心は経済対策や子どもの貧困対策の実現だった。自身も争点について「コロナ後の経済立て直しに多くの有権者の関心があった」と語っている。

 普天間飛行場のある2区では、辺野古移設に反対する新垣邦男氏=社民=が当選した。その日のインタビューで「米軍基地の集中する2区での勝利に大きな意義がある。(3区の結果で)辺野古を認めたということでは全くない」と反論した。

 翌11月1日、取材に応じた玉城デニー知事も「反対の意思はぶれていない」と強調した。

 実際、2019年の県民投票では、投票した人の7割が辺野古埋め立てに反対している。今衆院選では、争点として新型コロナウイルス感染症対策や、経済立て直しに焦点が当たったとの見方が大勢だ。

 ただ、辺野古反対を掲げる玉城知事にとって、国と対峙(たいじ)する上で後ろ盾となる民意を改めて示すことができなかったのは大きな痛手だ。

 沖縄防衛局は、基地建設計画に、地盤を強くする工事を追加しようと県に設計変更を申請している。玉城知事は結論を示していないが、申請を不承認とする公算が大きい。

 新基地建設に反対する「オール沖縄」勢力内では、衆院選の前に不承認とした方が基地問題に注目が集まり優位に働くとの意見もあった。だが玉城県政は「検討すべき要素は選挙だけではない」(県政関係者)と不承認後の裁判を見据えて慎重に進めることにした。

 与党県議の一人は、衆院選の結果を受けて玉城県政が不承認判断に尻込みするのではないかと分析。「裁判でも政治的にも不利なんだから、民意がないと厳しい」と悲観した。

 県幹部は、今回の選挙結果が知事判断に与える影響を否定する。「やるしかない。(不承認を)出してみないと(世論の反応は)分からない」と語った。

 来年秋の知事選に先立ち、1月には名護市長選が控える。現職の渡具知武豊市長の陣営は、島尻氏が3区で勝利した勢いをそのままに、市長選へ臨みたい考えだ。島尻氏の名護市の事務所は、市長選に向けた渡具知陣営の事務所に移行する。ポスターや旗が内側から貼られ始めている。選挙カーも引き継ぐ予定だ。

 自民党関係者は「衆院選と市長選は別物だ。現職市長の強みを生かし、運動量を上げていくしかない」とかぶとの緒を締める。辺野古については従来通り「推移を見守る」として姿勢を明確にしない見通しだ。

 「オール沖縄」側が支援する市議の岸本洋平氏陣営は、新基地反対を掲げながらも偏重しない政策を打ち出す構えだった。衆院選の結果を受け、戦略の練り直しを急ぐ。3区の敗因として基地問題に関する訴えが弱かったとの指摘があり、「オール沖縄」勢力の一人は「市長選では、明確に新基地反対を訴える必要がある。相手候補にできないことだ」と語った。

 岸本陣営の市政野党市議は「生活が苦しい中で基地問題だけを訴えるわけにもいかない。だが、基地問題も無視していい問題ではない。岸本氏は辺野古反対を語ってくれるだろう」と語り、気を引き締めた。

 (’21衆院選取材班)

(おわり)