<佐藤優のウチナー評論>糸数慶子氏の認識 相手はなぜ勝ったのか


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佐藤優氏

 10月31日の第49回衆議院議員選挙では、3区と4区で辺野古新基地建設を是認する自民党公認候補が当選した。県民の多くが辺野古新基地建設には、積極的、消極的という程度に差があるにせよ、反対しているにもかかわらず(筆者は積極的に反対している)、3区と4区で「オール沖縄」が敗北した理由は何か。

 この点について、日本共産党中央機関紙「しんぶん赤旗」に掲載された糸数慶子前参議院議員のコメントが興味深かった。糸数氏は国会議員時代、日本の政党の系列には属さない沖縄社会大衆党に属し、特定のイデオロギーよりも沖縄人としてのアイデンティティーを大切にする政治家だった。

 「アメリカ帝国主義による従属から日本を解放せよ」というような主張はせず、民主主義という価値観で沖縄と米国が共通の言葉を見いだすと信じていた。糸数氏の言葉に耳を傾けてみよう。

 <「オール沖縄」をめぐっては、選挙直前に金秀グループの呉屋守将会長が離脱を表明し、“弱体化”が言われました。国策に従わなければ公共工事を発注しない「アメとムチ」政策が背景にあり、多くの社員を抱える経営者として苦渋の選択だったと思います。でも、私たちは1区で前回より得票を伸ばし、きっちり結果を出しました。
 /3区、4区で勝てなかったのも残念でした。でも、辺野古新基地ノーの「オール沖縄」の水脈は尽きることなく流れ続けています。大義が揺らぐことはありません。ただ、運動の手法がどうだったのか、反省すべきは反省すべきだし、相手がなぜ勝ったのかよく研究し、そこから学ぶこともあるでしょう。全国的な野党共闘の結果についても、同じことがいえるのではないでしょうか。>(3日「しんぶん赤旗」電子版)。

 呉屋氏が「オール沖縄」から離れた理由は、中央政府による「アメとムチ」の政策だけではない。前回の名護市長選挙の際に呉屋氏が支援者を連れ、稲嶺進候補の応援に訪れたが、特定政党の支持者らが事務を取り仕切っていて呉屋氏らは会場に入れなかった。呉屋氏は強い不満を筆者に表明していた。翁長雄志前知事の時代と「オール沖縄」はだいぶ性格を異にする団体になったと筆者も認識している。

 沖縄の自己決定を強く望む人々が少なからずいる。しかし、それらの大多数を引き寄せる魅力が現在の「オール沖縄」には欠けている。辺野古新基地を抱える3区で、新基地建設を推進する主張を県内の自民党所属議員でも特に強く主張していた島尻安伊子氏(今回の総選挙では公明党との連携もあり、辺野古新基地推進に焦点が当たらないようにしていたが)が当選したことで、中央政府は安堵(あんど)している。

 しかし、島尻氏が北部地域の経済振興、一人親家庭の支援など、有権者のところを丁寧に回り、地域の需要を吸い上げる努力をしていた事実も認めるべきだ。北部では基幹病院も整っていない。政治がやるべきことはたくさんある。今、沖縄の革新勢力に求められるのは、糸数氏が述べるように「相手がなぜ勝ったのかよく研究し、そこから学ぶこと」だと思う。

(作家・元外務省主任分析官)