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リモコンの「dボタン」でおなじみデータ放送を立ち上げ メディアキャスト代表・杉本孝浩さん(糸満市出身)


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杉本 孝浩さん(メディアキャスト代表)

 テレビのリモコンに必ずといっていいほど付いている「d」ボタン。押すと、L字型の画面が表れ、ニュースや天気情報、番組案内などが表示される。このデータ放送を手掛ける国内唯一の専門会社を、2003年に立ち上げた。

 「これからはコンピューターの時代よ」。母親の言葉に飛びつき、県外にある大学の工学部に進学した。「当時は横浜に行きたくて、理由を探していた。いま思えば、誰かの言葉に刺激を受けることも大事だ」と笑う。

 大学では半導体研究に打ち込んだ。しかし卒業後の就職先に選んだのは、研究職ではなくIT系商社の営業職だった。「大学の4年間、自分が何に向いているのかを考えた。しゃべるのが好きだったから営業が向いていると思った。『白衣』より『スーツ』だった」と語る。

 3、4社を渡り歩き、1991年に映画「ターミネーター」などのCGを手掛ける外資系の「シリコングラフィックス(SGI)」に入社した。現在の仕事につながる「人生のターニングポイント」となった。当時、日本にはCG制作者がほとんどいない時代。米国の技術を日本に導入する業務に当たった。テレビ番組でおなじみのバーチャルセットなど、コンピューター技術と放送の融合に尽力した人物として業界では知られる。

 地上波デジタル放送が開始された年に、起業を果たした。データ放送関連のソフトウエアやシステムの開発をはじめ、販売や保守業務などを展開する。全国のテレビ局、ケーブルテレビと取引があり、ケーブルテレビ関係は100局以上に上る。

 近年はデータ放送を活用した情報発信に力を入れる。琉球朝日放送(QAB)と南城市、糸満市などの自治体が協力して行う、新型コロナウイルスのワクチン接種情報や災害情報など、市民への情報提供サービスを技術面で支える。

 「データ放送であれば、スマホの使用が難しい高齢者にも届く。時刻表など家庭の冷蔵庫に貼られているあらゆる情報や災害情報をテレビチャンネルに入れ、地域の安心、安全につなげたい」。培った技術力とノウハウを武器に放送業界を支えている。
 (問山栄恵)


 すぎもと・たかひろ 1963年生まれ、糸満市出身。糸満高校、東海大学工学部電子工学科卒業。IT系商社や外資系CGメーカー、ベンチャー企業を経て、2003年にメディアキャストを設立した。共同著書に「多チャンネル時代のコンテンツ制作」(日刊工業新聞社)など。