prime

ネットの言論規制 誹謗中傷対策に諸刃 事業者の自律モデルに期待<山田健太のメディア時評>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
違反コメント投稿者への投稿停止措置の強化について伝えるヤフーのプレスリリース(「Yahoo!ニュース」のウエブサイトより)

 眞子さん結婚報道がメディアをにぎわすなか、関連するいくつかの記事について、ヤフーニュースの読者コメント(いわゆる「ヤフコメ」)が「非表示」になった。そこでは、「違反コメント数などが基準を超えたため、コメント欄を非表示にしています」とのおことわりが書かれている。同様の措置は、韓国関連の記事でも確認されており、いわば〈炎上〉事例でのプラットフォーム事業者による「自主規制」が強化されたといってよかろう。

AI判定で規制実施

 国内最大級のポータルサイト「ヤフージャパン」の発表によると、10月19日以降、同社のニュース配信サイトである「ヤフーニュース」のコメント欄への書き込みについて、人工知能(AI)などを活用して人を傷つけるコメントを探し出し、投稿を繰り返すユーザー(利用者)に警告を発したり、削除してきたという。また、違反コメントが一定数に達すると、その記事のコメント欄全体を非表示にすることで、ヤフーニュースのコメント欄における誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)対策を強化、今後、有識者会議などを開催し運用の改善を図っていくようだ。

 ヤフコメは、記事に関連して読者が自由に感想を書き込める(投稿できる)もので、もちろん全くコメントがつかないものもある一方で、千単位でのコメントは一般的で、万を超えることも珍しくない。また、一般ユーザー以外に、「コメンテーターコメント」と呼ばれる事前にヤフー側が指定した専門家によるコメントも存在する。これらのコメントを受け付けるかどうかも、ヤフー側の判断となっている。

 これまでも、「問題」コメントの書き込みについては、独自の判断で警告等の措置をとってきたとされるが、今回の運用変更で「コメントの投稿ができなくなる可能性がある」との従来より強い警告を発するとともに、悪質な繰り返し行為については、投稿停止措置もとるとされる。また、前述の非表示にする場合は、AIが判定した違反コメント数などの基準に従い自動的に実施すると報じられている。

 なお、今回の運用開始のきっかけは同日に公示された衆議院選挙で、以前から問題視されていた選挙期間中のフェークニュース対策でもあったようだ。政治ニュース関連コメント投稿時に、「候補者に関する虚偽の事実の投稿」「名誉毀損(めいよきそん)や侮辱などにあたる投稿」については、「刑事罰の対象になります」と警告を発するようにもしていた。

指摘される課題

 ヤフコメをめぐっては、以前から差別やデモ、中傷の温床になっているとの指摘があり、ヤフー側も専門チームがAIを活用して「違反」と認めた投稿を削除したり、違反コメントを複数回投稿したりしたユーザーについては「投稿停止」などの対応をとってきた。しかしそれでは不十分との声に押され、全面「非表示」という新たな方法によって、誹謗中傷への抑止力を期待するものとなっている。

 非表示にすれば、問題ある投稿が読まれたり、それ以上拡散したりするリスクはなくなるが、問題ない投稿も同時に読めなくなるという事態が発生することになる。いわば「臭いものに蓋(ふた)」方式による問題だ。また、ヤフーはコメントの削除や非表示の判断基準についての開示はなく、いわばブラックボックスでの一方的な措置が、投稿したユーザーの表現活動を過剰に制約する可能性を排除できないままだ。

事業者の責任

 これまで、インターネット上の情報流通過程を担うプロバイダー(回線業者、接続業者、コンテンツサービス事業者、サイトの運営者・主宰者など)は、プロバイダ責任制限法によって一定の法的責任が負わされてきた。それは、明らかに違法なコンテンツであるとの指摘があった場合は放置しないことや、被害者からの情報発信者情報の開示が求められた場合の仲介義務などである。21年春にはその責務がより強化もされた。

 しかし原則は、表現の自由の担い手として通信の秘密を守ることや、仲介者が表現内容に介入することを忌避する考え方から、ネット上に流れる情報をせき止めることには消極的であった。それ自体、印刷所や書店が雑誌や書籍の内容に責任を負うことがないのと同様、表現の自由を確保するうえで、社会的制度としては堅持すべき大原則ではある。

 一方で、よく例に出されるGAFA(Google、apple、facebook=社名変更でメタバース、Amazon)や、日本でいえばヤフーや楽天などの巨大なプラットフォーマーは、インターネットという表現空間において、大きな社会的責任を負うことを免れない。むしろ、言論公共空間を担っているという自覚とともに、必要な自律的な取り組みをしなくてはいけないことは、どの社も自覚しているところであろう。

 その一つが、いわば「自主規制」であって、それは法規制を回避して、ネット空間の自由な言論環境を守るうえでも必須であるともいえる。それからすると、今回のヤフーの措置も歓迎される一歩であるともいえようが、その条件としては、こうした表現活動の制限が過度な萎縮を招かないためにも、自主自律が守られていること、判断(表現規制)の正当性について透明性が担保されていることが大切だ。

 さらにいえば、投稿等によって傷つけられた人に対する個別救済の制度を用意することや、一方で投稿を一方的に削除された発信者への説明責任や苦情対応の仕組みも求められよう。これらには当然コストがかかるが、それを負担することもまた、自由な言論公共空間を維持するために必要なものであるし、それを担う企業にとっての必要経費といえるだろう。この新しい試みが社会的に認知・了解されることで、法によらない自主自律の取り組みのモデルとして成長することを期待しつつ、最初の一方の踏み出し方を決して間違えないでほしい。

 (専修大学教授・言論法)
 (第2土曜掲載)
 


 本連載の過去記事は『愚かな風』『見張塔からずっと』(いずれも田畑書店)で読めます。