現代に響く普遍の愛 大伸座「丘の一本松」公演 舞台と観客が織りなす一体感


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互いの本心を知り抱擁を交わす主(右・嘉数道彦)と良助(玉城匠)=5日、浦添市の国立劇場おきなわ

 大伸座(大宜見しょうこ代表)の「丘の一本松」(大宜見小太郎作)が5日、浦添市の国立劇場おきなわで上演された。平凡な日常を舞台に、子を思う親心を描いた普遍的な愛の物語が、コロナ禍の現代を生きる観客の心を打った。県文化振興会主催のかりゆし芸能公演の一つ。

 鍛冶屋を営む主(すー)(嘉数道彦)は頑固者で、息子の良助(玉城匠)に手厳しい。アンマー(金城真次)は2人の間に入って、仲を取り持とうとするが、いつまでも腕前が認められないことに腹を立てた良助は、家を飛び出す。

 金城は、これまで大宜見静子をはじめ女性役者が演じていたアンマー役を男性で初めて任された。化粧は素朴に仕上げ、優しい声色と表情を保ち、北谷言葉を駆使したせりふ回しは、役へ丁寧に向き合う姿勢を感じさせた。

頑固な夫と息子の間を取り持とうとするアンマー(左から3人目・金城真次)と、ツル子(左端・知念亜希)

 同じく北島角子ら女性が演じてきた老婆役を、高宮城実人が務めた。老婆は一本松の下で、良助に親心を語って聞かせる大事な役どころ。北島と同様に柔らかなイントネーションの本部言葉で演じ、客席をうならせた。ゆったりとした動きながら、表情も豊かに、体全体で感情を表現する芝居に、思わず観客も顔をほころばせた。

 村人役のじゅん選手は、人気のアニメキャラクターの装いで登場し、笑いを誘った。幕あいに金城忍と伊禮門綾と共に演じた寸劇では、ツイッターを通して良助の家出を知るなど、現代の要素も交えて、物語を盛り上げた。

 ほか出演は宇座仁一、城間やよい、知念亜希、上原崇弘、比嘉心愛ら。歌三線は恩納裕、城間雄伍。

 大伸座は、8月公演がコロナの影響で中止となった。本公演に向けて稽古が本格化する一方、開催に向け予断を許さない状況だった9月末、大宜見代表は「舞台を心の支えにしている人たちがいる。舞台は私たちだけのものではない」と開催を誓った。

 困難を乗り越え本番を迎えた代表は終演後、笑顔があふれた客席の様子を振り返り「私自身が、つくづく舞台に助けられている」としみじみと話した。

 「相思相愛」の関係にある劇団と観客が織り成す舞台は、秋寒を吹き飛ばすぬくもりがあった。
 (藤村謙吾)

※注:高宮城実人の「高」は旧字体