prime

米中首脳会談 軍事衝突避ける外交を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 日本時間16日に米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席がオンライン会談を行った。

 <台湾や人権、通商問題を巡り主張を譲らず応酬となった。覇権争いが激化する中、衝突に発展することを回避する必要があるとの認識では一致。対話継続の重要性を確認し、意思疎通は続ける方針だ。米中両政府が発表した。/両首脳の対話は2月と9月の電話会談に続き3回目。共同声明など具体的な成果物はなかった。会談は約25分間の休憩を含め3時間40分に及んだ。/米政府高官は主要議題は「米中競争の責任ある管理や、競争を制御するガードレールづくりの方法」だったと説明した>(16日本紙電子版)。

 米中対立には二つの見方がある。第1はこれを民主主義対権威主義の価値観(イデオロギーと言い換えてもいい)の対立と見るものだ。米国はトランプ前政権の末期から中国との価値観の対立を強調するようになった。この見方に立つと中国が共産党1党独裁体制と決別し、国民の民主的選挙によって政府が形成される体制に改まらない限り問題は解決しない。

 中国からすれば国家体制の根幹の変更につながる米国のこのような要求をのむことはできない。従って、対立がますますエスカレートし戦争に至る可能性も排除されない。

 第2は米中対立を帝国主義諸国間の勢力圏争いとする見方だ。帝国主義国は、まず自国の利益を最大限に主張する。相手国がそれにひるみ、国際社会も沈黙するならば、帝国主義国は無理筋であっても自らの権益を拡大する。相手国が必死になって抵抗し、国際社会も「あまりにひどいではないか」という対応をすると帝国主義国は譲歩する。

 自らの行為を反省するからではない。このまま主張をごり押ししても、反発が大きいので、結果として損をすると計算するから帝国主義国はいったん退却する。そして次に前進する機会を虎視眈々(たんたん)と狙う。

 辺野古建設問題もこれと構造が似ている。沖縄の反発が大きければ、日本の中央政府は譲歩する。対して、沖縄が分断され反発が小さくなるならば、中央政府は自らの要求を貫こうとする。

 現実の国際関係は複雑系だ。価値観対立と帝国主義的対立の要素が混在している。ただしそのどちらの比重が重くなりつつあるかについては、米中関係を時系列で観察すれば見えてくる。トランプ政権の価値観外交をバイデン政権も継承したが、8月にアフガニスタンをタリバンが席巻したころから徐々に米国の中国に対する姿勢が変化を見せた。

 今回の米中首脳会談で注目されるのは、両首脳が衝突に発展することを回避する必要があるとの認識では一致したことだ。これは米国が価値観から帝国主義国間の均衡確保という方向に(恐らく無意識のうちに)かじを切ったからと筆者は見ている。この方向ならば、価値観対立よりは、米中の妥協が容易になる。いずれにせよ、米中の軍事的衝突を避ける方向で日本が外交的働き掛けを強める必要がある。

(作家・元外務省主任分析官)