路上生活者になるのかな…「連帯保証人」困窮者の壁に<SDGsで考える 沖縄のモンダイ>


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 国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)を推進し、地域や社会をよくしようとする企業や自治体の活動が活発化してきた。一方、県内では多くの課題がいまだに解決されていない。SDGsの理念にある「誰一人取り残さない」「持続可能な未来」の実現へ必要なものは何か。連載企画「SDGsで考える 沖縄のモンダイ」は、記者が現場を歩いて現状を報告し、沖縄大学地域研究所と大学コンソーシアム沖縄の協力で、学識者に解決への道筋を提言してもらう。8回目は高齢者や低所得層などさまざまな人が直面している「住まいの貧困」について考える。

 

 本島中部、築30年鉄筋コンクリート造りのアパートの一室。50代女性が一人で暮らしている。女性は40代のころ複数の持病を患い働くことが難しくなった。50代を迎え、両親が亡くなり一人暮らしをすることに。一定の貯金があれば保証人不要となる物件を見つけ、新たな暮らしを始めたが、貯金を切り崩す日々は数年で限界を迎える。コロナ禍で仕事探しも難航した。2020年の年末ごろから、家賃の支払いが困難となり、アパートを出て行かざるをえなくなった。

 年が明け次の住居探しを始めた。しかし、「連帯保証人」制度が壁となる。身内に頼める人はいなかった。途方に暮れる中、知人の紹介で、保証人が見つからない人の支援などに取り組む司法書士の安里長従さんと出会った。安里さんが保証人を引き受けてくれ、なんとか現在のアパートに入居できた。女性は住まいの確保に苦労した日々を振り返りつぶやいた。「家がないのは、社会に守られていないように感じるね」

 賃貸アパートを契約できず、ゲストハウスなどの低価格の簡易宿泊所に身を寄せる人もいる。本島南部の宿で3年ほど生活する40代男性は「もう少し自由のある生活」を夢見ている。部屋は個室だが、風呂やトイレに台所、洗濯機は他の利用者と共同使用。時にはトイレが混んでいて近くのコンビニに駆け込むこともある。

 男性は30代半ばで精神疾患などを患い、通院が増えて失職。生活保護受給者となった。アパート探しでは数十件以上断られてきた。不動産や大家に生活保護受給や持病があることを伝えると、入居を拒まれた。時には「何かトラブルが起きたら、正直迷惑なんですよね」と辛辣(しんらつ)な言葉が返ってきた。男性は現在も月に1、2件ほど不動産屋に電話をかけ、アパート探しを続けている。

 那覇市内の低価格の宿で生活する県外出身の男性(62)は16歳のとき家族が離散。高校には進学せず自動車会社などで働いてきた。持病の影響などでホームレスになり、現在は生活保護を頼りに暮らす。

簡易宿泊所ですだれを下げ隣との仕切りを作った2段ベッドの下段。住宅が見つからず60代男性が寝泊まりしている=11日、那覇市内

 宿の中には鉄製の2段ベッドが壁伝いに並んでいる。各ベッドにはすだれが垂れ下がり、男性ら利用者にとって唯一の自分の空間となっている。寝具だけでなく、歯ブラシやシェービングジェル、イヤホンや飲料水など生活品が雑多に置かれているベッドもあった。

 男性は長期間宿に住み続けるのはオーナーに対し申し訳なさが募るという。高齢で金も身寄りもなく不安は尽きない。「いずれは宿も出て行かないといけないかな」との思いにかられる。数少ない楽しみであるたばこをくわえ「ゆくゆくは路上生活者になるのかな」と不安を吐露した。

 生活困窮者の支援を続けてきた那覇市壺川の「県生活と健康を守る会連合会」(生健会、仲西常雄会長)。相談員の照屋つぎ子さん(73)によると、電話や対面で年間200件ほどの相談があり、その内の約半数が住居に関連するものだという。「高齢者はだめ、一人暮らしはだめ、保証人いないのはだめ」と、貸し手側から提示される条件は、皮肉にもことごとく生健会の相談者の状況に当てはまる。

 17年から生活困窮者の連帯保証人や緊急連絡先の引き受けなどを担ってきた一般社団法人ウパンナ(北谷町)の和田聡代表理事はこれまで、賃貸アパートに限っても100人ほどの保証人を引き受けてきた。ウパンナにはさまざまな人が相談に訪れる。定年退職後、収入を断たれた高齢者、DVから逃れてきたシングルマザー、未婚の妊婦、親から虐待を受け家から逃げ出した10代の少女、アルコール依存症の人など。

 精神疾患を抱え、身寄りのない50代女性が「身内代わりになってくれた人は初めて」と、涙をこぼしたこともあった。県外や離島出身者は不動産や家主側が提示する「保証人は沖縄本島の人限定」の壁に阻まれることもあるという。和田さんは「身内がいるかどうかは本人の努力ではどうしようもない。身寄りのない人でも契約しやすい仕組みづくりが必要だ」と語る。

公営だからこそ「保証人廃止を」

 県土木建築部住宅課によると、県内の県営住宅は2021年3月末時点で132団地(1万6936戸)ある。入居するにあたり、入居希望者が連帯保証人を見つけられない場合は、身元引受人を届けることで対応する特例措置があるが、原則的には入居者と同程度以上の収入を有する連帯保証人を求めている。倍率も地域差はあるが最も高い所では107倍(20年度)と、入居へのハードルが高い。居住確保のための施策や取り組みをまとめた「県住生活基本計画」では、2016~25年の10年間で、低所得などが原因で住居確保が困難な要支援世帯に2万千戸を供給することを目標としている。

 県は20年までの前期5年間で、1万200戸を供給目標とし、公営住宅の新規建設や建て替え、サービス付き高齢者住宅や民間借家など、約85%にあたる8642戸を供給した。県住宅課の担当者は「目標に対しおおむね達成している」と評価している。

 10年計画の折り返しとなる21年度は、コロナ禍などの社会情勢も踏まえ、計画見直しを進めている。新たな供給目標が算定され次第、県は目標値に近づけるよう公営住宅の新規建設や建て替え時の増戸、民間住居の活用を促進していくという。県内の自治体では市町村営住宅の申し込みに関して、那覇市など6市町村が保証人不要とする条例改正などをしている。
 

2021年度県営住宅空家待ち「入居者募集のしおり」の10ページに記された連帯保証人の項目

 居住確保の問題で、管理会社や家主などの貸し手側の苦悩もある。県内で住環境の総合支援を手掛けるレキオス(那覇市、宜保文雄社長)の下地雅美事業本部長によると、貸し手側にとっては入居前、入居中、退去後それぞれに懸念があるという。入居前は、低所得者の家賃未払いへの不安や借り手側の病気や障がいの特徴が分からないこと。入居中は近隣トラブルや事件事故が発生した際の対応、家賃滞納問題。退去後は行方不明や死亡した場合、残置物の処分や契約事項解除の手続きなどが課題になりやすい―などだ。

 これらの問題は緊急連絡先や家賃保証会社での対応に限界があるという。問題が起きたとき、行政や福祉機関との手続きなどで身内の保証人がいるとスムーズに進みやすい側面があるため、貸し手側は保証人を求める現状があると下地さんは説明する。

管理会社など貸し手側にとっての懸念事項を説明するレキオスの下地雅美事業本部長=9日、那覇市のレキオス本社

 司法書士の安里長従さんは、保証人の引き受けだけでなく、公営住宅の保証人制度廃止を求め、県内各自治体や議会に陳情を提出するなど精力的に活動する。安里さんは「住まいの貧困は社会的にも位置づけが低い」と指摘し、「保証人の有無で入居を妨げられる社会構造を変える必要がある」と強調する。

 保証人廃止は民間では容易ではないからこそ「公」が責任を持って、最後の住居のセーフティーネットとして公営住宅を手配する重要さを説く。需要に対して戸数が足りているのかなど、科学的検証に基づき、戸数を増やしていくなど具体的な取り組みが必要だと訴えている。
 

グラフィック作成 仲本文子

住まい 生活の基盤
 高田清恵氏(琉球大学教授)

 

 住まいの確保は人が人間らしく生きるために不可欠な要素だ。「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための基盤となる。「住まいは人権」なのだ。

 国際的にも国連の世界人権宣言などで、全ての人に保障される人権として住居の確保が位置付けられている。こうした背景を受け、日本でも住生活基本法で、住宅は国民の健康で文化的な生活には不可欠だと規定している。高齢者や障がい者など住宅の確保が困難な配慮を要する人には国や自治体は責任を持って居住の安全を図ることが定められている。こうした人々が地域で安心して暮らしていくことができるように国や自治体は、住宅の整備を進めることが求められる。

 その具体的な施策として公営住宅がある。低所得の人も人間らしい適切な水準で住居を確保できるように、国と自治体は住宅セーフティーネットとして公営住宅を提供する必要がある。だが、公営住宅で入居希望者に連帯保証人を求める現実がある。単身の高齢者などにとっては保証人確保は困難だ。セーフティーネットとなるべき公営住宅に保証人を設けること自体が制度に矛盾している。

 近年、国交省の通知に基づき全国的に公営住宅の保証人廃止の条例改正が広がりを見せている。それは沖縄こそ必要だ。他都道府県に比べて低所得者が多い沖縄は早急に取り組むべき課題だ。そもそも公営住宅は戸数も不十分である。民間の賃貸住宅も積極的に活用することも必要となる。その際、部屋の設備や耐震構造などの質や水準の確保も重要だ。生活保護による住宅扶助の活用ももっと積極的に行われるべきだ。

 誰もが住み慣れた自宅に住み続けられることは重要である一方、介護など諸事情で在宅が困難となった人が福祉施設などに転居できる環境づくりも忘れてはならない。

 (社会保障法)
 

雨風しのぐだけでない

 「住まいの貧困」。コロナ禍で社会問題となった「生理の貧困」に比べ、聞き慣れない言葉だった。だが、確実に存在し人ごととは思えない問題だ。私自身入社前の20代前半、経済的事情で住まいのない時期があったからだ。1年間、職場や知人宅、自家用車で寝泊まりした。

 今回、取材を通し出会った人も、両親の死や病気などが理由で経済的困窮に陥り住居を失っていた。新たな住まいを探そうとしても連帯保証人制度が壁となっていた。50代女性は「自助、共助、公助って何ですかね」と力なく語った。住まいの確保といっても、人はただ雨風がしのげればいい訳ではない。住居を単なる物ではなく、人権の観点で捉えなくてはと痛感した。

(照屋大哲)

 SDGs(持続可能な開発目標)は2015年、国連サミットで採択された国際社会の共通目標。環境問題や貧困などの人権問題を解決しながら経済も発展させて持続可能な未来を創ろうと、世界中で取り組みが進められている。