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中国との対話 信頼関係築き戦争回避を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 中国の王毅国務委員兼外相が林芳正外相に訪中の招待があったことが明らかになった。

 <林芳正外相は21日のフジテレビ番組で、中国の王毅国務委員兼外相と18日に電話会談した際、自身への訪中の招待があったと明らかにした。日程については「現段階で何も決まっておらず、具体的な調整が始まったわけではない」と述べた。/中国共産党最高指導部メンバーだった張高麗元副首相との不倫を告白したテニス選手の彭帥さんの安否に関し「注視している」と語った。日本政府の具体的対応は検討していないとした。/バイデン米大統領が北京冬季五輪に米政府高官らを派遣しない「外交ボイコット」の検討に言及した点について「われわれとして考えていく」と述べるにとどめた。>(21日、本紙電子版)。

 筆者は中国との関係で「価値観戦争」を行うことは得策でないと考えている。中国が欧米や日本と共通の価値観を持つまで圧力を加えていくという方法を取っても、中国がそれに応じることは考えられない。

 そもそもその国家がどのような政治体制を取るかは、一国の主権事項である。国家主権の尊重、内政不干渉という近代国際法の原則を主とするが、現在の国際社会の基準から著しく逸脱する人権問題などについては、必要最小限の関与をするというのが戦争を避けるために必要なアプローチと思う。

 ウイグルにおける中国の同化政策には、民族の自己決定権に照らして深刻な問題がある。われわれ沖縄人だってかつては琉球語を日常語としていた。また自らの王を持っていた。琉球処分(沖縄の廃藩置県)のときに日本の軍事力を背景に琉球王朝は解体され、尚泰王は半強制的に東京に移住させられた。

 琉球王国は、1854~59年にかけて米国、フランス、オランダと修好条約を締結し、国際法の主体として認められていた。しかし、日本による琉球の併合にこれら帝国主義列強は沈黙した。

 21世紀の今日、琉球語を日常的に用いる人々は高齢者を中心とする人口の圧倒的少数派になってしまった。正規の教育では、沖縄の歴史からすると疎遠な日本史が教えられている。ウイグル人が置かれた厳しい境遇を他の日本人よりは沖縄人の方が皮膚感覚としてよく分かる。同時に少数民族問題を利用する帝国主義国は、自らの国益を追求しているにすぎず、少数民族の真の利益を体現しているのでないことをわれわれ沖縄人は皮膚感覚として理解できる。

 こういう状況で重要なのは、現実的にウイグル人の人権状況を改善することだと思う。そのためにも中国との対話は不可欠だ。われわれ沖縄人にとって死活的に重要なのは、「祖国」沖縄が再び戦場にならないことだ。日本と中国の帝国主義的なゲームがはずみで武力衝突に発展した場合、地理的要因で沖縄はそれに巻き込まれる。このような事態を避けるためにも、林外相が中国を訪問して、中国の政治エリート、軍事エリートと人間的信頼関係を構築することが重要と思う。

(作家、元外務省主任分析官)