支援機関同士の連携必要 沖縄県里親会・松川園子会長に聞く<家族になる 里子・里親の今>


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里親制度の課題などを語る県里親会の松川園子会長=那覇市首里石嶺町のこころサポートさとおや

 さまざまな事情から親が育てられない子どもを迎え入れる里親制度。本紙は連載「家族になる~里子・里親の今」で、成長した子どもたちや里親家庭、子どもを養育する記者の経験や現状を紹介した。県内の里親らでつくる一般社団法人沖縄県里親会は、里親制度の普及や里親・里子同士の交流を支えている。松川園子会長(59)に里親登録のきっかけや魅力、制度の課題を聞いた。

 「養護教諭として学校に勤めていた頃、生徒の相談を受けるうちに家庭環境の問題を考えるようになった。次第に里親になってみようと思った」

 ―松川さんの子育てを振り返って。

 「2人の里子を育てた。一人は2歳の頃に迎えた。親の葛藤に巻き込まれ世の中を敵とにらみ、心を固く閉ざした状態だった。もう一人は出産後すぐに乳児園に託され元気に育ったが、子が養育者など特定の人に対して持つ愛着の形成が弱い状態だった。里親として私がやったことは食事を作り、笑顔で話し掛け、一緒に眠る、そんな普通のこと。安心感で心が満たされると、自分の人生を生きることができる。これからもいろいろな問題が起きるだろう。それが人生だ」

 ―里親登録に興味関心のある人に何を伝えたいか。

 「里子と過ごした時間の中で、起きる問題を自分の成長の喜びに変えて前向きに乗り越えていく力が育った。里子の傷を癒やし、自信と自己信頼が育つには時間がかかる。焦らずにゆっくり関わってあげてほしい。里親は、人の命を輝かす力を育てる尊い仕事だと思う」

 ―里親制度の課題は。

 「里子は突然家族になる。里親家庭に受託される前に怖い思いをしたり、大人を信じられなくなったり、自分の居場所がどこなのかも分からない状態で里親家庭の家族になることもある。また、個性が強く育てるのが難しい子もいる。親として、子どもの今の状態を理解し、どのような関わり方が最善なのか迷う。里親は子育てのプロではない。一般の市民だ。そのため、いろいろな場面で相談できる体制が必要だ。近年、里親家庭を支える支援機関が増えてきた。問題はその支援機関同士の連携が脆弱(ぜいじゃく)ということだ。里親の重要さと困難さを熟知し、それぞれの支援機関を生かし、連携を太くしていくリーダーシップを取れる機関が必要だ」

 ―県里親会の今後の目標は。

 「近年、虐待による一時保護が増え、社会的養育のビジョンも変化した。それにより里親の役割も変化してきている。一時保護児童の受け入れや、短期で子どもを迎える短期委託が増えている。社会的にはさらに重要な役割を担っているが、その急激な変化の中で里親の意識の変換と里親支援が追い付いていないように思う。変化のはざまで心を痛める里親がいる。これはとてもつらい。行政から求められる里親の役割だけではなく、会員同士が誇りを持ち活動できるように、『里親とは何か』を討論し、自分たちの理解を深めていくことが、今、必要なのではないかと思う」
 (聞き手・吉田早希)

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 まつかわ・そのこ 1962生まれ。特別支援学校養護教諭を20年間勤める。2002年に養育里親登録し、子ども2人を迎え入れる。14年には、子ども支援事業コミュニティ広場Anneを開設。18年5月から一般社団法人沖縄県里親会会長。


 沖縄県里親会

 養育技術の向上や里親制度の普及啓発などを目的に1972年に設立した。県内の里親らで構成する。会員の里親同士が子育て情報などを交換するサロンや研修会の開催、イベント企画など、里親や里子同士が交流する機会を設けている。会員数は今年4月1日時点で214世帯。那覇市首里石嶺町4の373の1。(電話)098(882)5709。


 

<取材後記>身近な愛、信頼 子の力に 吉田早希(暮らし報道グループ)

 

吉田早希記者

 「育ててくれた両親に感謝している」「子どもたちからもらった幸せは何にも代えられない」。取材を通し、里子や里親の生活に触れた。それぞれ葛藤や悩みがあったが、共に暮らす家族への感謝の気持ちは共通していた。

 里親家庭へ迎えられ、その後特別養子縁組をした仲根ありすさん(23)。幼い頃は「血のつながりこそ家族」という考えが周囲にあふれていると感じた。自分自身を否定的に捉えるようになったが、両親の愛情や言葉掛けが心の支えになった。

 里親の両親と暮らし、難病と闘いながら大学で学ぶゆうかさん(22)。「同じ境遇の子どもたちを心理士の立場から支援したい」と言葉には力が込められていた。

 「共に生き、家族になれることを教わった」。50代で里親登録し、3人の子どもを迎え入れた松田さん夫妻はそう語った。子どもたちを見つめる目線はとても優しかった。

 家族とは何か―。取材を進めながら常に頭に浮かぶテーマだった。血のつながりはなくとも、身近な人からの愛情や信頼は子どもたちの力となっていた。

 県内で実親から離れて生活する子どもは約500人。里親家庭や施設で育ったことを理由に将来が制限されることのない社会と多様な家族のかたちを、いま一度、考える機会になればと願う。