政府が沖縄の市町村に直接補助する「特定推進費」の問題点は?政府の狙いは?


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄国際大の宮城和宏教授(経済学)はこのほど、沖縄振興の制度を研究し、政府が県を通さず直接市町村に補助する「沖縄振興特定事業推進費」(推進費)の問題点を明らかにする論文を執筆した。政府は推進費をインセンティブ(誘因)にして、沖縄振興特別推進交付金(ソフト一括交付金)に基づく県と市町村の協調体制の分断を狙っているとした。「推進費の浸透は政府裁量を拡大し、県裁量の最小化につながる。沖縄振興特別措置法(沖振法)に規定される『沖縄の自主性の尊重』に反する」と指摘した。

 論文では、意思決定や利害調整に数学的なモデルを使う「ゲーム理論」を用いて推進費と一括交付金を分析した。市町村が推進費の支持を高めると、一括交付金が空洞化し、将来的に廃止につながりかねないとした。

 宮城教授は政府が2019年度に創設した推進費は法の裏付けがない「予算補助」で、事実上、政府裁量で市町村に予算配分ができる制度と指摘。一方、12年度に創設した一括交付金は沖振法に基づく「法律補助」だ。県と市町村の話し合いで配分方法が定められており、公平で透明性が高いとした。

 政府は近年、市町村から支持の高い一括交付金の予算額を減らす一方、推進費を拡大させている。宮城教授は「予算補助は国会によるチェックを受けずに政府内部の判断のみで設計された制度だ。政府は配分ルールが定められていない予算補助を用いて、県裁量の最小化を図っている。推進費がなくとも一括交付金の運用改善で対応は十分可能だ」と説明した。

 推進費のほか、00年度に創設された北部振興事業と17年度創設の沖縄離島活性化推進事業も予算補助だ。

 宮城教授は「政府は名護市辺野古の新基地建設を推進するため、最初に北部振興事業を創設した。この制度が県と市町村の分断にうまくいくと分かったので、次は離島活性化推進事業を作った。予算補助の空白地帯だったのが中南部だ。これを埋めるのが推進費の狙いだ」と分析した。

 (梅田正覚)

…………………………………………………………………………………………………………
 沖縄振興特定事業推進費 内閣府が2019年度に創設した。交付先として市町村のほか、市町村と密接な関係にある民間事業者も含む。「沖縄振興特別推進交付金(ソフト一括交付金)を補完する」との名目だが、県と市町村が協議をした上で配分額を決める一括交付金とは異なり、市町村が国に直接申請する。補助率は8割。補助対象となる事業は迅速、柔軟に実施する必要がある「機動性」と、他の市町村にも広げることが望ましい「先導性」、事業の効果が広域に及ぶと見込まれる「広域性」があるものを条件とする。これまで沖縄市の沖縄アリーナなどの建設に活用された。