<琉球料理は沖縄の宝 安次富順子>10 お正月にいかが?最高級のかまぼこに美しい菜飯 手間暇かけた伝統料理


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 沖縄には、王朝時代から脈々と伝えられた誇らしい料理がたくさんあります。素材の持ち味を大切にし、ティーアンダと時間を惜しまず作る料理は、おいしく長年大切にされてきました。お正月などに、作ってみてはいかがでしょう。

「花いか」の切り方

<素材生かし行事に彩り>

花いか

花いか

 身の厚いクブシミ(こぼしめ、甲いか)で作る最高級の料理で、祝い料理や東道盆(トゥンダーブン)にはなくてはならない一品です。クブシミは、繊維に沿って切り込みを入れてゆでると反り返ります。その切り込みの入れ方により、身のはじけ方に違いが出て、いろいろな形になります。それを食紅(昔は紅麹(べにこうじ))の液でゆでると赤く着色し、薄く切るといかの白い身を赤く縁どりされた切口があらわれ、とても華やかになります。花いかの良さは、クブシミならではのもので、セーイカなどでは出せません。琉球料理の中では、数少ない高度の技巧を要する「包丁の芸術」といわれるものです。

かまぼこ

 

肉(シシ)かまぼこ

 行事料理にはなくてはならないものです。赤かまぼこ、白かまぼこ、卵をたっぷり使ったカステラかまぼこ、棒かまぼこ、チキアギー、肉(シシ)かまぼこ、からし菜入りかまぼこ、八重山かまぼこなどたくさんあります。

 中でも、とても手の込んだ肉(シシ)かまぼこを紹介します。2種類のすり身、一つは脂身のない豚ロースのミンチに魚のすり身をすり込んだもの、もう一つは魚のすり身を準備します。豚ロースのすり身を下にして広げ、その上に魚のすり身を広げ、くるくる巻いて蒸したもので、最高級のかまぼこです。

 また、魚のすり身に島菜の絞り汁を入れると、きれいな緑色の香り高いからし菜入りかまぼこが出来ます。なお、かまぼこは、粘りのある県魚「グルクン(たかさご)」で作るとおいしいものが出来ます。

ミヌダル

 

ミヌダル

 うす切りの豚背ロース(ボージシ・Aロース)の水気をしっかり取り去り、黒ごまのたれをまぶして蒸した料理で、真っ黒く出来上がることから、クルジシ(黒肉)とも言われています。蒸すことで脂分が抜け落ち、見た目から受けるイメージとは違い、あっさりとした品の良い料理に仕上がります。ごまのたれにいかの墨を入れるとコクが出るという記述もあります。

 昔は結婚式、生年祝い、お正月や、東道盆などでのもてなしには必ず作られた料理です。多めに作っても保存がきき、蒸し返しても味が変わらないので重宝する料理です。ミヌダルの語源は諸説あるようですが、定かではありません。

中身の吸い物

 豚の胃、腸の吸い物です。生は大変臭いのですが、胃、腸に付いている脂を取り除き、何度も何度もゆでこぼし、臭みを完全に取り去ります。中身を幅7ミリ、長さ5センチに切り、干ししいたけせん切りと共に汁物の具にして、おいしい豚だし(かつおだしを加えることもある)で吸い物に仕上げます。香りづけに、ヒハツ(胡椒(こしょう)に似た香辛料)の粉または生姜(しょうが)を添えます。こんにゃくを具として加えることもあります。豚の内臓は中国料理などでは調味料や香辛料で臭みを抑えて使っていますが、沖縄では臭みを完全に取り去り、吸い物の具に仕上げます。その技術は素晴らしく、中国と日本の料理の混ざり合った料理を表しているように思えます。お正月や祝い事、法事などの最高級の料理として使われています。

ドゥルワカシー

菜飯

 沖縄特産の田芋(ターンム)とムジ(茎、ズイキ)をラードで炒め、あられ切りにした豚肉、しいたけ、かまぼこなどを加えておいしい豚だしで煮込みながら、きんとん状に練り上げ塩で味をつけます。田芋の香りと粘りにそれぞれの持つ味わいが一つとなって、アジクーターと言われる深みのある味を生みます。田芋は親芋の周りに子芋をつけることから子孫繁栄を意味し、祝い料理の代表的な食材となっています。

菜飯(セーファン)

 にんじん、青菜、しいたけ、タケノコ、薄焼き卵など、野菜を主とした具を細めの短冊切りにして、うす味で煮ます。温かいご飯の上に具を放射状に並べ、別に用意した吸い物味の美味しい汁をかけます。複合的な味を好む琉球料理としては珍しく、さっぱりした味わいで、見た目にも美しく上品な料理です。宴席では最後に出され、食べる直前にかけ汁を注いで回りますが、昔は、ユチヂ(湯桶)という注ぎ口と取っ手の着いた円形の漆器が使われました。類似の料理に、豚肉を使った豚飯(トゥンファン)、鶏肉を使った鶏飯(ケイファン)があります。(琉球料理保存協会理事長)

 (琉球料理保存協会理事長)
 


 安次富順子(あしとみ・じゅんこ)

 那覇高校、女子栄養大学家政学部卒。1966年~2016年まで新島料理学院、沖縄調理師専門学校(校長)勤務。沖縄伝統ブクブクー茶保存会会長。主な著書に「ブクブクー茶」「琉球王朝の料理と食文化」「琉球菓子」など。


~~ウチャワキ~~

包丁の芸術「花いか」

 「花いか」は、沖縄に古くから伝わる、他に類を見ない素晴らしい技法であり、文化です。昔は蟹(かに)がえし、馬がえし、二階がえし、御殿がえしなどという切り方があったようですが伝承されていません。

 私はいろんな形を想像して、守礼門、花笠、竜宮城、蝶々(ちょうちょう)などと自分で名付けて切っています。

 最近、いかの身に等間隔に単純な包丁目を入れて赤く染めたものを「花いか」と称しているのを見かけますが、文化を低めているように思えて残念でなりません。高度の技術を身に付け、「花いか」という文化を守りたいものです。