メスが派手なオスを好む理由 鶴井香織・琉大農学部准教授<未来へいっぽにほ>


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 前回は、メスがオスの派手な見た目を好むことで、オスに長い尾羽(おばね)や鮮やかな色彩などが進化する性選択理論を紹介した。今回は派手なオスがモテる理由を考える。

 有力仮説の一つは、オスの派手さはオスの遺伝的な優秀さを正直に現す目印になっているという優良遺伝子説だ。メスは派手なオスを選ぶことで、生存に有利な遺伝子を持つ子を残せるわけだ。派手な目印はオスにとって生存上のハンディとなり得るため、この説は「ハンディキャップ説」とも呼ばれる。一方、派手なオスに生存上の有利な性質は無く、オスの派手さはメスにモテるという理由だけで進化したと考える学者もダーウィンをはじめ多く存在する。モテるオスと交配すると息子も父親に似てモテる結果、たくさんの孫をもうけられるという考えで「sexy son(イケメン息子)仮説」とも呼ばれる。人間にとって直感的に分かりやすい学説だがその動物にとってイケメンとは何か、なぜモテるようになったのかが問題だ。

 この問題は少し難しいが、次のような「走りだしたら止まらないrun away理論」で説明されている。ある時、一部のメスがオスのある目立つ性質に引かれるようになり、「目立つオス」と「目立つオスを好むメス」の交配が進むと、「目立つ遺伝子」と「目立つオスを好む遺伝子」をセットで持つ個体が増える。これにより「オスの派手さ」と「メスの派手オス好き」は互いに増長し合いながら進化する。派手さの進化は、生存上の不利さがモテる有利さを上回るまで止まらない。

 これらの学説にはそれぞれ部分的な証拠はあるが、いずれも決着がついていない。あらゆる生物に共通する仕組みがあるのか、生物種によってケースバイケースなのか。性淘汰(とうた)理論は今や生き物番組でポピュラーだが、実はまだまだ奥が深いのだ。