里親委託の解除めぐる訴訟中に児童保護、識者はどうみる 


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(左)西澤哲氏 (右)名城健二氏

 生後2カ月から養育している児童(5)の里親委託を児童相談所が解除し、里親宅から引き取り、一時保護した。実親が委託同意を撤回したためだが、里親側は「解除は一方的。里子に精神的ダメージを与える」などとして引き渡し差し止め訴訟を起こしている。識者に聞いた。


子に望ましい環境を 西澤哲氏(山梨県立大教授)

 本来ならば、子どもの養育環境としてどちらが望ましいのかとの観点から考えるべきだ。子どもは生後2カ月から里親の下で育っており、実親との親子関係が築けていない。児童相談所はそれを踏まえて実親に状況を伝え、里親への委託を継続することもできたはずだ。

 児相の機能の点で言うと、里親の下にいる時点で、児相は実親の意に反して子どもを親元から分離するよう家裁に申し立てることもできるが、その点はきちんと検討されたのだろうか。実親による養育が可能かどうか判断するアセスメント(分析評価)も重要になるが、何より大事なことは「この子を守る」という児相の本気度だ。

 児相が親の同意なく委託できないという法律を基に、強制的に里親と子どもを分離させる事例は全国で起きている。里親も泣き寝入りせず、今回のように声を上げ続けることは大切だ。

 (臨床心理学)


子にいい影響与えない 名城健二氏(沖縄大教授)

 子どもは情緒の安定を図る上で、特定の大人と親密な関係を築くことが必要になる。2~5歳は愛着形成に大事な時期と言われている。その観点から見ると、愛着形成の対象となった人(里親)と急に引き離すことは子どもにいい影響を与えない。しこりが残る可能性がある。一方で、発達障がいが真実告知をできない理由となるかは、少し疑問が残る。今回表に出ている情報だけでは判断できないが、発達障がいの特性があっても、丁寧に子どもに告知をした方がいい。愛着障がいがあり、夜泣きが多いなど情緒が不安定であれば、真実告知を延ばすことは考えられる。

 10、20年後、子どもにとって真実告知の有無は大切になる。その時の動揺は大きいかもしれないが、5歳児なりの気持ちの準備がある。数カ月でも委託期間を延ばして、告知をしてから、引き渡す流れでも良かったのではないかと思う。

 (精神保健)