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核保有5カ国共同声明 「勝者なし」は画期的<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 私事で恐縮だが、昨日の7日から都内の某大学病院に入院している。5日の大学病院検査では、クレアチニン10・4、eGFR(推算糸球体ろ過値)4・7という危険水域に入り、心電図とX線検査では不整脈と肺炎(恐らく細菌性)、自覚症状として嘔吐(おうと)感と倦怠(けんたい)感(尿毒症反応とのこと)が出ていた。このままだと心不全、窒息など致死性のリスクがあるとのことで、緊急入院を主治医から勧められた。6日に今後の仕事の段取りを整え、7日朝のラジオ番組に生出演した直後に病院に向かった。これで闘病も新段階に入る。

 さて、国際的には核兵器の不使用に向けた大きな動きがあった。ロシア政府が事実上運営するウェブサイト「スプートニク」がこう報じた。

 <クレムリンの公式サイトに掲載された声明によれば、中国、ロシア、英国、米国、フランスの首脳らは核戦争防止および核保有国間の戦争阻止をうたった共同声明を表した。/「中華人民共和国、ロシア連邦、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国、米合衆国、フランス共和国は戦争の阻止を自国の第一の責任ととらえている」/核大国5カ国は自国の保有する核兵器は互いに向けたものでも、第3国を標的にしたものでもないことを確証した。

 /核大国の首脳らは「核兵器の使用は広範囲に影響を及ぼしかねないことから、我々は核兵器について、現時点では存在しつづけ、国防的な目的、暴力の抑止、戦争回避に役立つべきものとも確証している。我々はこうした兵器のこの先の拡散は阻止すべきであるととらえている」という声明を表した。/ロシア外務省によれば、核大国5か国による共同声明はロシアの発案で準備された∨(1月3日「スプートニク」日本語版)

 米ロ間のINF(中距離戦略核)全廃条約が、2019年8月に失効し、新たな軍拡競争が東アジアで懸念されている状況で、中国、米国、ロシアがそろって「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならないことを確認する」と声明したことには画期的意義がある。「核戦争に勝者はいない」という主張は、1980年代にゴルバチョフ・ソ連共産党書記長が「新思考外交」の一環として強く打ち出したものだ。当初、この主張に米国が同意することはないと安全保障の専門家は考えていた。

 しかし、スイスのジュネーブで85年11月19~21日に共同会談が行われた際にレーガン米大統領がゴルバチョフ書記長の主張に同意し、21日発表の共同声明に∧双方は、枢要な安全保障問題についての討議を行い、平和の維持に対するソ連と米国の特別の責任を認識して、核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならないことにつき意見の一致を見た。双方は、ソ連と米国との間のいかなる紛争も破滅的な結果をもたらし得ることを認識しつつ、核戦争または通常戦争のいかんを問わず、両国間のいかなる戦争をも防止することの重要性を強調した。双方は軍事的優位の達成を求めない>と記された。

 ロシアのプーチン大統領は、2020年6月2日、ロシアや同盟国を狙った弾道ミサイル発射の情報が正確な場合には核先制使用を容認すると明記した「核抑止力の国家政策指針」に署名した。この指針ではロシア国家の存続を脅かす通常兵器による攻撃、ロシアの国家や軍の重要施設に対する核の報復攻撃を阻害するような工作(例えばサイバー攻撃)があった場合にも核先制攻撃が可能になると明記している。1年半前と比べプーチン大統領の核廃絶に対する姿勢が前向きになっていることが評価できる。 

(作家・元外務省主任分析官)