コロナ拡大と米軍基地 沖縄の過重負担、命に直結<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 沖縄は日本の陸地面積の0・6%を占めるに過ぎないが、そこに在日米軍専用施設の70%が所在する。1952年4月28日にサンフランシスコ平和条約が発効した時点では、沖縄の在日米軍専用施設が10%だったのに対し、沖縄以外の日本では90%を占めていたことを考えるならば、現在の状況は不平等だ。不平等な状況が改善されないのは、日本の中央政府のみならずマスメディア、国民もそれでいいと思っているからだ。

 差別が構造化されていると差別している側の人は、自らが差別者であるという認識を持たない。沖縄の米軍専用施設過重負担問題についても中国の理由にするが、それは沖縄人に対して説得力を持たない。沖縄県も日本国の一部である。外国の脅威から日本を防衛する必要があるということは沖縄人も十分理解している。それ故に米軍専用施設の極端な過重負担を沖縄に甘受せよと言っても皮膚感覚としてそれは受け入れられない。

 ここで重要なのが歴史の記憶だ。日本と米国が国家の行為である戦争によって沖縄の領域で沖縄人を殺した過去がある。対して、中国が清、明の時代を含めて、戦争で沖縄の領域で沖縄人を殺したことはない。沖縄は日本の中の異国である。沖縄人の中国観が他の日本人と異なっていても不思議ではない。

 普段は目に見えない構造化された沖縄差別が危機のときに顕在化する。

 <自民党の茂木敏充幹事長は11日の会見で、沖縄での新型コロナウイルスの感染急拡大と県内の米軍基地でのクラスター(感染者集団)との関連について、「一つの要因として考えられる」との見方を示した。政府は、これまで沖縄でのコロナ急拡大と米軍基地との因果関係について明言を避けている。政権与党の幹部として踏み込んだ発言で、与野党候補が対決する16日告示の名護市長選に与える影響についても「状況を見ながら検討したい」と注視する考えを示した。
 /記者団からキャンプ・ハンセンなど在沖米軍基地で相次いだクラスターとの因果関係について見解を求められた茂木氏は、「(感染経路が)まだ完全に分析されているわけではない」としながらも、「一つの要因として、基地関係者との関係で感染拡大した、こういう要因は否定できない」と述べた。>(12日本紙電子版)

 コロナ感染症に関しても米軍専用施設の過重負担のために、沖縄は追加的な苦しみを受けている。これまで政府高官や官僚が在沖米軍基地のクラスターと県内でのコロナ感染症急速拡大の関連を認めなかったのに対して茂木氏が「一つの要因として考えられる」と明言したことは、評価できる。ただそれだけでは不十分だ。沖縄の政治家はこの機会に米軍専用施設の過重負担問題は沖縄人の生命と健康にも直結することを強く日本の中央政府とマスメディアに対して訴えてほしい。
                                                         (作家、元外務省主任分析官)