名護市長選で問われるものは?識者に聞く


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名護市役所(資料写真)

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の埋め立ての是非を巡り、国政にも影響を与える重要選挙として名護市長選は全国的な注目を集める。一方で、選挙の度に翻弄(ほんろう)される有権者の“選挙疲れ”の指摘や、「基地問題は市長選の争点にならない」(菅義偉前首相)とする意見もある。市長選で問われるものや争点の考え方などについて識者に話を聞いた。


大城渡 名桜大教授 住民諦めず 示す選挙
 

大城渡名桜大教授

 市長選では辺野古埋め立てが重要な争点になる。国の安全保障政策に関して、一地方自治体の選挙で問われてよいのかという議論もある。だが、国策である安全保障政策だからと言って住民に憲法上保障された人権や平和、自治といった諸価値を上回るものにはならず、むしろそれらを侵害することがないようにしなければならない。必然的に争点になり得る。

 県民投票や知事選でも辺野古反対の民意が示されているにもかかわらず、政府は埋め立て工事を強行している。そのため辺野古に関して県民の一部に諦め感の広がりも感じる。

 慢性的に自由が抑圧される状況が続くと個人はその状況に折り合いを付け、自由を諦める場合がある。法哲学の概念で「適応的選好形成」と呼ばれるものだが、辺野古を巡る諦め感には同概念で理解し得る側面もあろう。特に名護では辺野古を巡り地域が分断される苦悩もあった。

 今選挙では辺野古容認を掲げている立候補予定者はおらず、どちらが選ばれても今の工事が認められたと分析するには無理がある。ただ県民投票後の動きを見ても、結果がどうあれ政府が工事を止めるとは考えにくい。

 その中で今回の選挙でも辺野古が争点になる意義はどこにあるのか。

 それは住民が辺野古を諦めていないことを示し、全国民が享受する安全保障の利益を確保するために一部地域に不当な負担や犠牲を強い続けるこの国の安全保障の構造と、それを黙認する国民世論に強く異議を唱える点にある。

 四半世紀に渡り辺野古が争点になり続けているということ自体が大きい。政府や国民はそのことを厳しく受け止めなければならない。

(憲法学)


久保慶明 琉球大准教授 掲げる争点 尊重を
 

久保慶明琉大准教授

 沖縄の各種選挙で、辺野古や米軍基地を巡る問題を争点化したくないという姿勢に対して「態度を鮮明にせよ」ということが一般に言われるが、名護市長選という市レベルの選挙では、必ずしも重要ではない。候補者が掲げる争点には政治家としての姿勢が表れる。候補者に優先すべき争点が他にあるのなら尊重されるべきだろう。

 自民、公明の推薦を受け地域振興や子育てなどの実績を打ち出す渡具知武豊氏か、オール沖縄の支援で辺野古について反対姿勢を鮮明にする岸本洋平氏か。名護市の有権者がどちらを争点としてより重視するかということだ。

(2021年10月の)衆院選では、名護市を含む沖縄3区で自公が支援する島尻安伊子氏がオール沖縄候補の屋良朝博氏を下し、名護市でも島尻氏の得票が上回った。その影響は両義的で、一方では自公が勢いに乗り、他方でオール沖縄の危機意識につながった。どちらも選挙運動を活発化させた可能性がある。

 前回市長選の投票率(76・92%)は、前回衆院選の市の56・81%より約20ポイント高い。名護市の有権者の5分の1は、国政選挙に関心がなくても、地域のリーダーを決める市長選では投票すると考えられる。この層に訴えが届くかどうかがポイントだ。

 知事選までは半年以上あり、それまでに何が起こるか分からない。今回の選挙結果が与える影響は限定的だろう。ただ、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大し、玉城デニー知事が厳しい姿勢を見せ、政府も対応せざるを得なくなった。知事や政府の姿勢を渡具知氏と岸本氏がどう評価するかを、有権者は注視していると思う。

(政治学)