名護の将来のために 名桜大の一層強化を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 私事で恐縮だが、筆者の病状について伝えたい。肺炎は治った(コロナではなかった)。血液透析は軌道に乗っている。ただし、透析を始めると継続的に不整脈が出るようになったので心臓手術(アブレーション)が必要になった。手術の時期はこれから決めることにして、20日に退院した。入院中、「琉球新報」の読者から激励の電話、手紙、メールをたくさんいただいた。どうもありがとうございます。これからは、週3回、4時間の透析、前立腺がんと心臓病の手術が控えているが乗り切って、腎臓移植につなげていきたいと思っている。

 いよいよ明日は名護市長選挙だ。選挙前の新聞報道は、本コラムを含め、特定候補者を応援するもしくは忌避することは避け、中立を心掛けなくてはならない。辺野古新基地建設について筆者の立場は周知なので繰り返さない。ただし、今回の市長候補者で、新基地建設を積極的に推進すると主張する人はいない(積極的に反対を主張する人はいる)。辺野古を焦点化すると不利と自民党は考えているのであろう。なお、自民党と公明党は同一候補を応援しているが、公明党は辺野古新基地建設反対の立場で一貫している。

 名護市で重要なのは、北部地区の基幹病院の整備だ。北部住民の生命に直結するので、この問題に真剣に取り組んでほしい。

 さらに北部地域の高等教育の拠点となっている名桜大学を一層強化していくことが重要だ。名桜大学の教師、職員は大学に対する帰属意識が非常に強い。また琉球学・沖縄学で博士号が取得できる世界で唯一の大学院を持っている。学部4年で卒業する学生についても指導が丁寧で入学時と比べると学力が飛躍的に向上している。

 名桜大学は沖縄アイデンティティーの中核になろうとしている(将来、ヤマトの大学でポストを得るための腰掛けとして名桜大学を利用しようとするような研究者は受け入れない。だから筆者はこの大学の客員教授を勤めている)。名桜大学はヤマトの偏差値ヒエラルキーとは別の基準で教育を考えている。もっとも入学偏差値は琉球大学に迫っている。

 この大学を社会人の再教育(リカレント)の場として用いる、北部の中小企業が名桜大学と協力してイノベーションを起こす、また名桜大学から起業する若者が出てきてもいい。大学を強化するためには政治のサポートが必要だ。

 名桜大学が強くなると、その影響は北部地域の高校にも及ぶ。筆者の母校である埼玉県立浦和高校では、埼玉大学と提携し、大学の授業を聴講できる態勢を整えている。また、先輩が教授となっている医学部で手術の見学をしている。北部地域の高校生(あるいは中学生)が早い時期に地元の大学で知的刺激を受けることは、その若者の将来に大きなプラスの影響を与えると思う。

 明日の選挙では、会社や組織のしがらみにとらわれずに、自らの良心に照らしてふさわしいと思う候補者に投票してほしい。
                                                         (作家、元外務省主任分析官)