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トルコの「死の商人」外交 ウクライナ情勢を悪化<佐藤優のウチナー評論> 


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佐藤優氏

 ウクライナ危機が緊迫の度合いを強めている中で、トルコが火に油を注いでいる。2月3日、トルコのエルドアン大統領がウクライナの首都キエフを訪問し、同国のゼレンスキー大統領と会談した。

 <「我々は(ロシアに併合された)クリミア半島を含め、ウクライナの主権と領土の保全を支持し続ける」。エルドアン氏は会談後の会見でこう述べる一方で、対話を仲介する姿勢を見せた。ゼレンスキー氏は、「エルドアン氏の仲介者としての役割に感謝している」と応じた。両国は、自由貿易協定などにも署名した>(2月4日「朝日新聞デジタル」)。

 この訪問でエルドアン氏は、「死の商人」のごとく振る舞った。エルドアン氏は、ゼレンスキー氏との会談で、攻撃型ドローンをウクライナで生産することに合意した。

 <トルコがウクライナに輸出するドローン「バイラクタルTB2」は、東部の親ロシア勢力に対する攻撃に投入されているとみられている。今回の合意を受けてトルコからウクライナへの技術移転が加速する可能性があり、ロシアがウクライナの動向に一段と警戒を強めることになりそうだ。/(首脳会談後の)記者会見で、ゼレンスキー氏は「新たな(ドローン)技術は、ウクライナの防衛能力強化を意味する」と述べた。ウクライナ、トルコ両国の代表団はドローン生産のほか、自由貿易協定の締結などに関する合意文書に署名した>(2月4日時事)。

 仲介外交では、対立する両国の信頼を得ていることが必要条件になる。ウクライナ危機を利用してトルコ製の攻撃型ドローンを売り込み、ビジネス上の利益を追求しているエルドアン氏は、仲介者としての資格を持たない。

 既にトルコがウクライナに提供した攻撃型ドローンがウクライナ東部情勢を悪化させる原因になっている。去年10月にウクライナ政府軍は親ロシア派武装勢力が実効支配する地域をドローンで攻撃した。

 <ウクライナ政府軍が10月下旬、東部の紛争地域で親ロシア派武装勢力への攻撃にトルコ製ドローン「バイラクタルTB2」を初めて使用したとする動画を公開した。欧米がウクライナに苦言を呈する中、ゼレンスキー大統領は(10月)29日、「領土と主権を守っている」と強気の声明を出した。/ドローンは2014年から続く紛争の形勢を一変させる「ゲーム・チェンジャー」となり得る。親ロ派の後ろ盾のロシアは27日、紛争をエスカレートさせる恐れがあると警告していた>(21年10月31日時事)。

 今後、ゼレンスキー大統領がウクライナで生産されたドローンで親ロシア派武装勢力を攻撃し、それがロシア軍が侵攻する口実にされる可能性がある。

 ウクライナとロシアが戦争を始めれば、欧米はロシアに対して追加的経済制裁を行い、ロシアがそれに対抗してヨーロッパへの天然ガス輸出を停止する可能性がある。そうなると国際市場で天然ガス価格が急騰し、沖縄の電気料金、ガス料金も高騰し、それが全ての物価上昇につながる。コロナ禍で景気が回復しない状況でスタグフレーション(不況とインフレの同時進行)となり、県民生活に大きな打撃を与える可能性がある。

(作家、元外務省主任分析官)