与那国の自衛隊誘致(上) 賛否巡り尾を引く分断 ごみ問題解決も防衛予算で<人口減社会を生きる>3


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与那国駐屯地の門。上にシーサー、後方に自衛隊車両がある=2021年12月15日、与那国町

 2016年、日本最西端の与那国島に陸上自衛隊の駐屯地が開設された。沿岸監視隊約160人が配備され、周辺の海域や空域で行動する船舶や航空機をレーダーで監視する役割を担う。

 駐屯地内には陸上競技場があり、町民も利用できる。防衛省は町議会の要望に沿って、日本陸上競技連盟の公認基準を満たす9レーンを整備した。グラウンド前に立てられた看板には「黒潮の風(くるうすぬかでぃ)」と書かれている。地元の小中学生から募集して決めた愛称だ。

 1972年の日本復帰に伴う自衛隊の配備以降、県内への新たな駐屯地建設は与那国駐屯地が初めてだった。与那国町が誘致に動いた背景には、人口減少に歯止めを掛ける狙いがあった。

陸上自衛隊与那国駐屯地グラウンドの看板。愛称は地元の小中学生から募って決めた

 戦後初期、与那国島は台湾から物資を運ぶ「密貿易」の拠点として栄え、人口は1万2千人にまで増えた。だが、その後は減少し、復帰直後の75年に2155人、2015年には1500人を切った。

 町によると、他の離島と同様に、高校進学や就業環境の不安定さから島外に出る人が多かったことや、医療提供体制などが人口流出の要因だ。

 16年の部隊配備以降、家族を含めて自衛隊関係者約200人が島に暮らしている。自衛隊配備の賛否を巡って住民投票が行われるなど、島に生じた分断が尾を引く。一方で人口は約1700人に増え、複数の学年が合同で授業を受ける複式学級が一部解消された。

 町漁業協同組合の嵩西茂則組合長は「人手がなければ行事などもできない。力仕事も担ってくれる自衛隊はありがたい」として、共同体の新たな担い手として歓迎する。これに対し、自衛隊誘致に反対してきた田里千代基町議は「(自衛隊員は)数年で異動となるため、地域に根付かない」と根本的な解決にはならないと指摘する。

 こうした中、離島で課題となりやすいごみ問題の解決策も、与那国町は自衛隊誘致によって見いだした。従来使っていた焼却炉は02年、ダイオキシン排出基準強化に伴って廃止。ごみの野積みが限界を迎えると、処分場をつくって埋めた。焼却炉の新設は厳しい財政状況の中、見通しが立たなかった。

 そこで防衛省の補助を使うことで道筋を付けた。総事業費23億8千万円のうち9割が国庫補助だ。19年に建設を始め、21年8月から稼働している。埋めていたごみも掘り起こして焼却し始めている。

 糸数健一町長は「自衛隊が配備され、デメリットはない。いい影響だけ」と胸を張る。陸上競技場の9レーン化などについても町の要望通りになっているとし「(防衛省に)だめとは言わせない」と語った。

 ただ、2000年代前半に町が描いていた将来像は、現在と違ったものだった。

 (明真南斗)