「魚が消える、漁業が終わる」宮古島の漁師、三重苦 軽石にコロナ、原油高も


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胃袋から誤飲した軽石が出てきたシイラ。写真右下が軽石=昨年12月(伊良部漁協提供)

 【宮古島】「30年以上、漁師をしてきて、こんなに苦しいのは初めて。魚を売っても赤字だ」。3日、宮古島市の3漁協(宮古島、伊良部、池間)による市への漁業者支援要請の場で漁師の1人が切々と訴えた。新型コロナウイルスによる外出自粛で市場が鈍化し販路が閉ざされる中、軽石が漂着し、原油高による燃料高騰と宮古島の漁業者は三重苦にあえいでいる。
 

「魚が消える」

 宮古島海域では昨年11月から軽石が漂着した。徐々に漂流域は拡大し、漁港や漁場などで現在も大量の軽石が確認されている。

 12月中旬、伊良部漁協で漁獲した魚の胃から誤飲した軽石が出た。シイラやカツオ、マグロなど「売れる魚」だが、同漁協では軽石が出た魚は全て廃棄している。伊良波宏紀組合長は「大きな軽石は排せつできない。えさが食べられずやせ細って死んでしまう。長期化したら海域から魚が消える」と危惧する。

 伊良部漁協では軽石を吸い込んでエンジンが故障し、漁船が出漁できない状況も頻発している。エンジン総取り替えになった場合は1千万円以上、軽微な修繕でも数十万円はかかる。伊良波組合長は「漁師はリスク承知で漁に出るしかない。生活がかかっている」と語る。
 

「出漁しても赤字」

 コロナ禍に伴う緊急事態宣言やまん延防止等重点措置で全国的に市場が縮小し、魚が売れない状況も続く。島内でも飲食店や宿泊施設の客の減りと比例して魚の需要は減少している。

 池間漁協の與那嶺大組合長は「需要減で魚のセリ値が下がり続けている」と話す。同漁協所属の漁船はほとんどが単価の高い魚をメインに一本釣りで漁獲する。與那嶺組合長は「時期や魚種によるが、セリ値が通常の半値以下になっている。経費も回収できない。出漁したら赤字という状況だ」とため息をつく。

 市場鈍化による養殖業への影響も深刻だ。宮古島漁協に所属する正組合員は約百人。うち6割がモズク養殖業だ。今年は豊作で、年間1200トンの収穫を見込む。だが、売り先がない。

 同漁協の栗山弘嗣組合長によるとモズクは9割が県外出荷だが、業者からの注文が入らない。「業者も在庫を抱えたくない。居酒屋、量販店すべてそう。漁師には収穫を待ってもらっている」と明かす。

 収穫期を逃すと熟してちぎれ、海に流れてしまう。「今年は本当に品質がいい。かといって収穫しても塩蔵するしかないし、市場が動かないことには漁師に収穫量も伝えられない」
 

「行政の力を」

 原油高による燃料費高騰にも漁師は苦しむ。宮古島漁協によると、2020年度は1リットル約80円だった燃料が、21年度後半から約120円と1・5倍に上がった。一度の漁に必要な燃料は約400リットル、1万6千円が余分に掛かる。栗山組合長は「年間80万も漁師の取り分がなくなっている。その中で軽石の対策費も自腹で捻出している。頭が下がる」と話した。

 「このままでは島の漁業が終わる」。危機感を持った3漁協は3日、連名で市に支援を求めた。座喜味一幸市長は「県とも連携し早急に対応する。何ができるか検討させてほしい」と応じた。具体策はまだ示されていない。伊良波組合長は「漁協も知恵を絞る。一緒にやれることは全力でやる。行政に力を貸してもらいたい」と願った。

 (佐野真慈)