与那国の自衛隊誘致(下) 先進地歯止めならず 波及効果 島の答えまだ<人口減社会を生きる>4


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与那国町の久部良漁港=2021年12月15日

 島の強みを生かして活性化に取り組もうと、与那国町は2005年3月に「与那国・自立へのビジョン」をまとめた。陸上自衛隊が配備される11年前だ。町職員としてビジョンの策定に携わった田里千代基町議は「ビジョンを進めていたら人口がもっと増えて活気が出ていただろう。自衛隊とは一言も入っていない」と指摘する。

 ビジョンは東アジア地域との経済交流と観光誘客に力を入れることを明記した。特に111キロの近さにある台湾が念頭にある。

 与那国町は1982年から台湾の花蓮市と姉妹都市提携を結んでいる。戦後初期に島が栄えて人口がピークに達したのも台湾との「密貿易」が背景にあった。町は花蓮市との交流促進に向けた「国境交流特区」指定を国に申請したが、二度、却下された。

 そして、2015年に実施された陸自沿岸監視部隊配備の賛否を問う住民投票で賛成票が反対票を上回ると、当時の外間守吉町長は、ビジョンで示した台湾との交流から、自衛隊との共存による振興へとまちづくりの方針転換を明確にした。

 田里氏は今でも自衛隊誘致に反対する立場を譲らない。「人流や物流を深めることで安全保障を実現すべきで、緊張を高めるのは逆効果だ」と強調する。

 陸自によると、与那国町よりも前に離島振興・過疎対策の一環として自衛隊を誘致した離島の自治体として、北海道の礼文島がある。だが、1968年の礼文分屯地開設後も人口減少は止まらず、配備前に8千人前後だった人口は約2400人まで減った。

 同じく陸自の駐屯地を抱える長崎県対馬市も、72年の部隊移駐前は約5万8千人だったが、半分程度の約2万8千人に落ち込む。

 与那国島の人口は自衛隊配備前で約1500人。現在、隊員と家族の200人分が上乗せされる形で約1700人となっている。自衛隊の誘致が人口減少の歯止めとなるかどうか、島内でも見方が分かれる。

 自衛隊誘致に取り組んだ町漁業協同組合の嵩西茂則組合長は「人口減少に歯止めは掛けられた。税収増にもつながっている」と経済的な波及効果に胸を張る。

 一方、特徴的な新商品を次々と生み出す崎元酒造所の崎元俊男代表は、もともと自衛隊配備に反対だった。「本来は自衛隊に頼らなくても魅力のある島だと思う。台湾と近いという地理的メリットもある」と語り、誘致に積極的だった人たちが言っていたほどの経済効果は出ていないとも感じている。

 だが、「配備されてしまった以上、子どもたちが同じ学校に通う、島民同士だ。『出て行け』と言えない。小さな島ではいがみあって暮らしていけない」と語る。

 糸数健一町長は取材に「結果が出るのは数十年後だ。自衛隊誘致で終わりでもない」と語り、島の活性化へ台湾との交流深化や企業の誘致も進める考えを示した。

 駐屯地が開設されて6年、島の答えはまだ出ていない。

 (明真南斗)