海底送水管更新工事を巡る官製談合防止法違反などの疑いで、現職町長の西大舛高旬容疑者(74)が逮捕された。竹富町では1975年から送水管を通じて、水源が豊かな西表島や石垣島から町内の各島へ水を送る送水管事業が始まった。町民のライフラインに関わる事件の背景には、都市部の都合に翻弄(ほんろう)される小規模自治体の苦悩が浮かぶ。事件を受けて、町民からは困惑の声も上がっている。
「西表島以外の各島々は隆起サンゴ礁のため面積が小さく、生活用水には不自由を来してきた」。無人島を含め大小16の島々からなる町の「町政30周年記念誌」には、水不足に長年悩まされてきた町民の、苦難の歴史が記されている。町民の悲願だった送水事業が始まってから今年で47年。事業を巡り町長が逮捕された。
「老朽化した送水管の更新は必要だった」。町上下水道課の担当者は、送水管の早期更新の必要性を訴える。西表島以外の町内の島々には大きな山や川がなく、土地の保水力も乏しい。2013年には、石垣島と竹富島を結ぶ送水管が破損し、竹富島で丸1日以上にわたって断水することもあった。安全な水を島々に届ける送水管は、まさに町民の“命綱”だ。
担当者は話を続ける。「うちの課の発注工事で最近、落札不調が増えている」。昨年開催された東京五輪・パラリンピック関連の建設工事のラッシュ以降、同課発注の工事の入札に、業者が参加しないことが増えていった。理由としては、工事の人員確保が難しくなったことが考えられるという。「必要な工事を業者が受けてくれない。町としても業者に『入札に参加してくれ』とお願いすることもあった」と内情を明かす。都市部で大規模工事が進められる中で、小規模自治体のインフラ整備に影響が出るという現状が、事件の背景に見え隠れする。
一方、送水管を頼りにする町民からは、困惑の声が上がる。今回の送水管更新事業は15~25年にかけて実施され、22年度には西表島と小浜島を結ぶ送水管工事も予定されている。町民の一人は「小浜の送水管工事はこれからだと聞いているので、事件が影響しないか心配だ。早く事件の全容が知りたい」と語り、不安そうな表情を浮かべた。 (西銘研志郎、写真も)