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ウクライナ危機 当事者対話で戦争回避を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 11日、オーストラリアのメルボルンで日米豪印4カ国(クアッド)の会合が行われた。クアッド外相会合は今回で4回目で、対面での開催は2年ぶりのことだ。林芳正外相、米国のブリンケン国務長官、オーストラリアのペイン外相、インドのジャイシャンカル外相が出席した。

 <ブリンケン米国務長官は、ロシアによるウクライナへの脅迫とそれを支持する複数の国により「国際規範が挑戦を受けている」と表明。中国とロシアの連携を批判した。共同会見では、北京五輪開催中もロシア軍がウクライナに侵攻する可能性があるとの考えを示した>(11日本紙電子版)

 ブリンケン氏をはじめ米政府高官は近未来にロシアがウクライナを侵攻することがほぼ確実との前提に立って議論を展開している。対してロシアのプーチン大統領は、マクロン仏大統領、ショルツ独首相との会談で、ロシアから戦争を仕掛けることはないと繰り返し述べている。さらに当事国であるウクライナの認識が米国とはだいぶ異なる。

 <ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、ロシアが数日内にウクライナへの軍事侵攻を検討しているとのバイデン米政権高官の発言や米メディアの報道について「パニックを起こす情報はわれわれの助けにならない」と述べ、危機は差し迫っていないとの認識を示した。タス通信が伝えた。

 ゼレンスキー氏の発言は当事国ウクライナの危機の評価が米国側と食い違っていることを示している。ゼレンスキー氏は記者団に「(侵攻について)100パーセント確実な情報を持っている人がいたら教えてほしい。パニックは敵の役に立つだけだ」と述べ、米側主張に不快感を示した>(13日本紙電子版)

 ゼレンスキー氏は、ロシアとの戦争を恐れている。米国を中心とするNATO軍の地上軍の派遣を含む支援がなければ、ウクライナ軍はロシア軍を撃退できないと同氏が認識しているからだ。今回の危機は、ゼレンスキー氏が「ミンスク合意」を順守しないために起きた。「ミンスク合意」では、親ロシア派武装勢力が実効支配するルハンスク州とドネツク州の一部領域の現状を維持することを約束している。

 しかし、去年秋からゼレンスキー氏が当該領域を武力によってウクライナ中央政府統治下に置こうとする動きを示した。12日にゼレンスキー氏は「緊張緩和を実現できるのは外交的手段だけだ」(13日「朝日新聞デジタル」)と述べた。ならばウクライナ政府は、親ロシア派武装勢力(「ルハンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」を自称している)代表を加え、ロシア、ドイツ、フランスと協議すべきだ。そうすれば戦争を回避できる。

 国際社会は、ロシア、ウクライナ、親ロシア派武装勢力の全ての当事者に対話の席につき、平和的解決の方策を見いだすように働き掛けるべきだ。米国のバイデン政権がとっている一方的にロシアを非難し、ウクライナに戦争を無理強いするような政策は、問題解決を難しくするだけだ。

(作家・元外務省主任分析官)