国頭・安田区「東京や県庁の机上から押しつけ」定住促進の遅れにいらだち<人口減社会を生きる>5


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伊部岳実弾演習場の阻止を記念した「闘争の碑」の前で、住民の定住条件整備に向けたインフラ整備の重要性を語る神山坦治さん=2021年12月8日、国頭村安田

 那覇市から北東に直線距離で約90キロ、本島東海岸に位置する安田区(国頭村)。世界自然遺産エリアの「真ん中」にある同地区は漁港や診療所が所在し、村東海岸の中でも、拠点となる集落の一つだ。かつて住民らは林業をなりわいとし、ヤンバル船で木材を那覇まで送った。だが、復帰前まで最大で約1千人が居住した人口は、現在約150人に落ち込んでいる。生活利便性の格差から、本島中南部や、村役場など行政機関が所在する西海岸側への人口流出に歯止めが掛かっていない。

 「過疎は非常に難しい問題で、諦めにも似た感情がある。定住人口を増加させようといっても、若者の仕事がなければ出て行かなければならない」。同区元区長の神山坦治さん(81)は区の現状をこう訴える。

 住民らによると、1950年代、安田小学校は1学年に20~40人の児童が在籍していたが、現在は全校で6人しかいない。ほとんどの児童は山村留学として他地域から来てもらい、学校が存続できている状況だ。「安田共同店」も赤字が続き、区の補助でなんとか営業を続けている。

 人口減少はインフラ面での整備の遅れや、住民サービスの停止にもつながった。県病院事業局は2007年、交通事情の改善などで、他医療機関の利用が可能になったことや、県立病院本体の体制維持などを理由に、県立安田診療所を休止。区の要請によって、10年から村立東部へき地診療所として、村が管理運営を行う。県立の撤退に伴う診療休止によって「医療格差」も指摘された。

 地上デジタル放送が全面開始となった11年、伊部岳に立てられたアンテナは県外の通信を拾い、県内の放送が映りにくい状況もあった。居住者の約4割が65歳以上の高齢者の同区にとって、台風などの災害状況が見られないのは「死活問題」。区として要請を続けたことで、米軍施設内にアンテナを立てることで解決した。

 神山さんは診療所問題、地デジ問題を振り返り「東京や、県庁の机上で物事を決め、田舎に押しつける。そして、田舎の整備は後回しだ」と語る。定住条件の整備に、県など行政の関わりの弱さを感じる住民も多い。

 安田の住民らは1970年12月、秘密裏に進められていた米軍の実弾演習場の建設を区民らの総出で阻止した経緯がある。その記念碑の前で、神山さんは「集落を何とかもり立てたい」と語った。区の伝統行事「シヌグ」を後世に伝える伝承館、世界自然遺産認定を契機としたエコツーリズムの推進など、産業の創出に向けた模索が続けられているが、打開策は見つからないままだ。

 (池田哲平)