伊江島の土地闘争、阿波根さん直筆の陳情書か 食料不足や米軍演習の被害…島民の様子切々と 65年8月、首相宛て


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伊江島民が米軍の演習で命を奪われたり、土地を接収され食料が無いために「乞食行進」をして生き延びたことを切々と訴える阿波根さん直筆とみられる文書

 【伊江】米統治下の伊江島で土地闘争に取り組んだ阿波根昌鴻さん(1901~2002年)らが、65年8月に戦後首相で初めて来沖した佐藤栄作首相(当時)に宛てた「伊江島軍用地問題に関する陳情書」とみられる文書がこのほど見つかり、保管していた「復帰50年を考える会」から19日、阿波根さんの足跡を伝える「わびあいの里」(謝花悦子理事長)に返還された。

 返還されたのは縦29センチ、横461センチの巻物状の文書で、わびあいの里によると阿波根さん直筆の陳情書。佐藤首相が来沖した65年8月19日の日付で、島民が米軍に農地を奪われ、食料不足に苦しんでいること、米軍の演習で命を落とした住民もいることなどが切々とつづられている。日本政府に対し土地の返還や死傷させられた農民への補償などを求め、阿波根さんら真謝区の地主代表12人が名を連ねている。

 「考える会」が、映画の製作上映を通じ沖縄の問題を全国に知らせ復帰を訴えた安室孫盛さん(石垣市出身、1906~82年)の足跡や、安室さんの記録映画「石のうた」について調べる中で、かつて安室さんと行動を共にした町田忠昭さん=東京都=から沖縄関係資料の一つとして2019年に提供された。今回、復帰50年に合わせて返還を決めた。

「復帰50年を考える会」の山本隆司さん(右)から文書の原本を受け取る謝花悦子理事長=19日、伊江村のわびあいの里

 わびあいの里で開かれた返還式典で、考える会の山本隆司さんが謝花理事長(83)に文書を手渡した。謝花理事長によると陳情書は2通作成され、1通は日本政府に郵送提出し、残る1通は阿波根さんらが那覇の琉球政府前で、通過する佐藤首相に向けて掲げ訴えたという。

 謝花理事長は、文書は琉球政府前で掲げた陳情書ではないかとし「(抗議で)座り込む人々の上に掲げたと聞いた。大事に保管いただき感謝する。『武器を捨てなさい』との阿波根の思いは生きている」と語った。

 文書に名を連ねた島民の平安山良有さん(90)は「(戦後は)米軍に畑を取られ作物が作れず、食べ物が無くて苦しかった。阿波根さんは進んだ考えの人。優しかった」と振り返った。

 考える会事務局で県平和祈念資料館学芸員の久部良和子さん(62)は「沖縄の問題を全国に知らせようと駆け回った安室さんらの存在を沖縄の人に知ってほしい」と呼び掛けた。阿波根昌鴻資料調査会代表の鳥山淳琉球大教授は「65年は、阿波根さんらが恒常的にさまざまなことを訴えていた時期。積み重ねた取り組みの一端を語る史料だ」と指摘した。

(岩切美穂)