都心の業務を久米島で IT企業のリモートワーク、雇用も期待 島の挑戦・上<人口減社会を生きる>7


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東京から久米島へ移住したヒューマンセントリックス久米島ラボの藤崎陽介室長(右から2人目)と妻の夏摘さん(同3人目)。県内で雇用した社員の大原淳史さん(右)と沖本翔太郎さん=2021年12月、久米島町比嘉

 「本番、テイク1。スタート!」

 動画制作大手、ヒューマンセントリックス(HC社、東京)の久米島ラボで室長を務める藤崎陽介さんは、ディスプレー上の中継映像を見ながら東京のカメラマンに指示を出し、オンラインで結ばれた久米島町の事務所から顧客とコミュケーションを取る。同社は企業向けのPR動画を制作するベンチャー企業で、藤崎室長は久米島からのリモートワークで動画監督を務める。

 同社の営業や動画制作拠点は東京と福岡にあるが、制作の一部は地方移住をした藤崎室長が設立した久米島ラボで担っている。高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムの普及が始まりつつあり、企業向けPR動画の需要は近年飛躍的に高まっている。

 藤崎室長の業務内容と給与水準は東京時代と変わらない。久米島からのリモートワークでも動画の単価は都心と変わらず数十万円から数百万円だ。顧客は国内の大手企業のほか、外資系のアマゾンジャパンやIBMなどといったグローバル企業も含まれる。

 東京で生まれ育った藤崎室長は2019年9月に家族と久米島へ移住した。人混みが少なく自然豊かな上、一定規模の病院やスーパーなどの環境が整っていることが決め手だった。

 同社の中村寛治社長の後押しもあり、久米島ラボを21年8月に立ち上げた。現在、IT企業未経験者も含む2人の社員を県内から雇用した。ワークライフバランスを重視する藤崎室長の姿勢に共感した若者らだ。現在も規模拡充に向けて求人を出しており、最大8人程度の雇用を考えている。

 藤崎室長は「離島で自由に仕事ができるのは最高の福利厚生だ。久米島にいても、仕事の質は都会に負けない。都心の第一線の仕事ができる」と強調した。

 19年時点の県データでは、県内に情報通信関連産業は490事業者が立地するが、98%が本島にある。石垣市や宮古島市以外の離島にIT企業が立地するのはHC社が初めて。離島という地理的不利性を克服するIT企業の立地に町や県は期待を寄せる。

 特に町は近年、「毎年100人の減少」と称されるほどの人口減に頭を悩ましている。町人口は1990年は1万309人いたが、30年後の2020年には約3割減の7192人となった。

 町企画財政課の担当者は「人口の社会減を減らすためには雇用の場が必要だ。HC社などのIT企業が地域に根付き、テレワークで雇用創出することを期待している」と語った。

 過疎対策を担う県地域・離島課の山里永悟課長は「HC社は都心と変わらない単価で仕事をしており、高収入化が難しい離島でモデルケースになり得る。久米島だけでなく、他の離島でもIT企業が進出できるのでは」と大きな期待を寄せた。
 (梅田正覚)