河野克俊・前統合幕僚長「日本も反撃力を」 星野英一・琉大名誉教授「軍事力強化は中国を刺激」…「台湾有事」沖縄への影響は?


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 中国の台頭による米中対立の深まりで、台湾を巡る東アジアの安全保障環境が厳しくなっている。こうした中でのロシアによるウクライナへの侵攻を受け、台湾有事を想定した日米の軍事力強化がさらに進む可能性がある。南西諸島における米軍、自衛隊基地の戦略的な位置付けが増す一方、各施設がミサイル攻撃の対象となり、沖縄の島々が戦闘の現場となる危険性が高まる。台湾有事の想定や米軍基地を抱える沖縄への影響をどう考えるのか、星野英一琉球大名誉教授(国際関係学)、河野克俊前統合幕僚長に聞いた。


河野克俊氏「有事住民避難、県庁も整備を」
 

河野克俊氏

―東アジアの安全保障情勢をどうみるか。

 「軍事面で中国が非常に優位になってきている。台湾有事は米中の軍事バランスが関わってくる。米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官が発言していたように、習近平総書記(国家首席)の3期目の任期が終わる2027年のあたりを気を付けないといけない」

―台湾有事で沖縄も戦域になるのか。

 「台湾から与那国島まではわずか110キロしか離れていない。中国が台湾に対し、軍事統一という手段を取れば、日本、特に沖縄を含めた南西諸島に影響が及ばないということは軍事的には考えにくい」

 「起きた場合は日本に非常に大きなダメージになる。だから、軍事衝突を中国がやれない状況をつくらないといけない」

―日米の対応は。

 「米軍は中距離ミサイルの研究開発を終え、そんなに遠くない時期に東アジアに配備する方向になる。日本も『反撃力』『攻撃力』を持つべきだ。それが抑止力になる。政府で検討を進めてほしい。専守防衛についても、タブーを取っ払って、議論しないといけない」

―米側は自衛隊にどのような役割を求めているのか。

 「日米同盟はよく盾と矛の関係と言われてきた。しかし、いまは米軍も日本を守るというよりは、日本とともに地域の平和と安定を守るという意識に変わってる。盾と矛と分けること自体がサイバーや電磁波の時代になって意味があるのかとの指摘もある。日本が盾も矛もやることになる」

―沖縄で有事に備えた軍事的な整備は進んでいるが、有事の際の住民避難は進んでいない。

 「そこは、きちんとしないといけない。法律で整備されている。自衛隊もお手伝いはするが、本来は県庁や自治体にやってもらわないといけない」

―沖縄では再び戦場になるとの危機感がある。

 「ごまかさず、正面きって国民に説明すべきだ。有事の場合にはこういう負担があるということを説明し、論議から逃げないことだ」

 (聞き手 問山栄恵)


星野英一氏 日中対話ネットワークが必要
 

星野英一氏

―台湾有事の可能性をどのように分析するか。

 「1990年代は台湾の総統選挙時に中国がミサイル演習を実施し、米空母が出動する台湾海峡危機が発生した。現在、台湾内部で独立に向けた主張は声高ではなくなり、中台の経済の結びつきは強まる。中台関係について、日米は『一つの中国』という中国側の主張を認めている。米台関係も軍事同盟ではなく、中国の安全保障上の脅威にはなっていない」

 「長期的には台湾は中国と相互依存を深めると中国は見る。中国は『台湾独立は武力で阻止する』と主張するが、そうでない段階の武力行使は明言しない。中台を巡る国際関係のバランスが崩れぬ中、あえて中国が軍事行動に踏み切る可能性は低い。日米の軍事力強化の方が中国を刺激しないか懸念がある」

―ロシアのウクライナ侵攻と台湾有事を関連付けてみる議論もある。

 「ウクライナ全面侵攻は合理的な決定ではなく、予想外の事態と受け止められている。ロシアの政策決定者集団の認識が、ロシア研究者だけではなく、ウクライナや欧米諸国にも見えていなかった。『何をするか分からない国』との認識が広まると、自国の軍事力強化の方向に議論が進みがちになる」

―台湾有事を防ぐため必要な取り組みは何か。

 「中国指導部の意図を正確に捉え、意見交換できるネットワークの構築が必要だ。日中の意図が異なることはあるだろうが、それを調整するのが外交や政治家の役目だ。反中ナショナリズムをあおって対中認識をゆがめ、ミサイル配備にまい進し、核兵器の共有を正当化し、両国間の不信を高めることではない」

―県民ができることは。

 「ウクライナ侵攻のように、制空権確保のため空港や軍事施設は攻撃対象になる。米軍・自衛隊基地を抱える沖縄にとって、台湾有事は避けなくてはならない事態だ。政治家に対話のネットワークを維持させ、自治体や民間レベルでも国際交流のネットワークの一部となることが必要だ」

(聞き手 塚崎昇平)