<琉球料理は沖縄の宝 安次富順子>13 栄養豊富な自然の恵み 農産物でおいしく健康な生活を


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 肉食文化と共に長寿を支えてきたともいえる農産物の数々。おいしさだけでなく健康的にも優れた豊富な野菜、芋、果物、また黒砂糖があります。ただ、2018~20年の統計局家計調査年報(都市別統計の那覇市のデータ)によると野菜の摂取は全国最下位で、野菜の摂取量が少ないのが危惧されています。ただ、人参は日本一の消費量を誇り、さらに、その他の野菜に分類されている野菜(冬瓜、苦瓜、ミックスベジタブル、とうもろこしなど)も日本一です。統計上数値は定かではありませんが、島野菜は結構食べられているのかもしれません。

人参シリシリー

<長寿支える農作物>

多彩な島野菜

 ゴーヤー(苦瓜)、ナーベーラー(へちま)、チデークニ(黄人参)、島ラッキョウ、青いパパイヤ、フーチバー(よもぎ)、ンジャナ(苦菜・ホソバワダン)、イーチョーバー(ういきょう)、ハンダマー(水前寺菜)サクナ(長命草・ボタンボウフウ)、クヮンソウ(萱草・あきのわすれ草)、カンダバー(芋の葉)などいろいろあります。
 ゴーヤーは、ビタミンCを豊富(100グラム中に76ミリグラム)に含んでおり、そのビタミンCは熱に強いのが特徴です。また苦みの成分であるモモルデシンは、胃腸の粘膜を保護し、食欲を刺激することもあり、夏負け予防の妙薬といわれています。フーチバーは、万病の薬と言われる香り豊かな野菜です。一年中手に入るのも沖縄の特徴です。ンジャナは、健胃、整腸、利尿、便秘などに効き目があり、強い苦みがあります。イーチョーバーは、健胃作用に優れ、咳止めや痰を切る効果があり、特有の香りがあります。
 ハンダマーは、「血の薬」と言われ、貧血などに良いとされています。アントシアニン系の色素を含んでいて、葉の裏は紫色をしています。火を通すとぬめりが出ます。サクナは、ぜんそく、胃腸病、風邪に効くといわれています。クヮンソウは根が睡眠薬として使われます。夏から秋にかけて柿色の花をつけ、花は甘酢に付けて付け合わせなどに使われます。

芋類

 

ドゥルワカシー
ジーマーミ豆腐

 さつま芋(ンム)、田芋(ターンム)、山芋(ヤマン)などがあります。
 さつま芋は、17世紀初めに野国総管が中国から苗を持ち帰り、儀間真常により広められました。唐芋と呼ばれていましたが、薩摩に伝わり琉球芋、江戸に伝わりさつま芋と呼ばれるようになりました。稲作の少ない沖縄ではさつま芋を主食とした長い時代がありました。さつま芋のおかげで台風や干ばつなどによる飢饉(ききん)も乗り越え、また、さつま芋の残渣(ざんさ)は豚の餌に使われ、豚肉文化を支えました。さらに、ンムクジ(さつま芋のでんぷん)は、ンムクジアンダーギー、ンムクジプットゥルー、ジーマーミ豆腐などに使われています。昔は、ンムカシ(ンムクジを取った残りかす)を非常時に備えて保存していました。近年人気の「紅芋」にはアントシアニン系の色素が含まれ、紫色を呈するので、菓子などに使われています。
 田芋(ターンム)は、水のきれいな水田で栽培される里芋の一種で、水芋とも呼ばれています。親芋の周りに子芋、孫芋がつくことから、子孫繁栄を意味し、祝い料理には欠かせないものです。田芋は火を通した状態で売られており、皮にひびが入っているのがおいしい田芋の見分け方です。薄紫色で独特の香りと味、粘りが特徴で、その特徴を生かした料理にドゥルワカシー(田芋、ムジ=ずいき、豚肉、しいたけ、かまぼこなどを豚だしで練り上げたもの)、ターンムディンガク(田芋のきんとんのようなもの)があります。また、出産祝いにムジのお汁や冬至(トゥンジー)には田芋を入れたトゥンジージューシーなどもあります。
 山芋(ヤマン)は大きく育ち、粘りが強く、菓子や揚げ物、炒め物などの料理に使われます。白色と紫色があり、紫色にはアントシアニン系の色素が含まれています。
 落花生は土の中に実をつけることから、地豆(ジーマーミ)と呼ばれています。王朝時代から使われていた貴重品で、ハレの食材として使われ、ジーマーミ豆腐や王朝菓子にも多く使われています。

黒砂糖

 

 黒砂糖は、深みのある味とコクがあり、健康的な甘みとして料理や菓子に使われています。原料のサトウキビの絞り汁をそのまま煮詰めた「含蜜糖(がんみつとう)」で、精製していないのでミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウムなど)を多く含みます。一方、白砂糖やグラニュー糖は、精製し甘み成分だけを取り出したもので、ミネラルは除かれています。黒砂糖は、エネルギー源ですが、黒砂糖の糖分は、消化酵素によって素早くブドウ糖と果糖に分解され、さらにブドウ糖をエネルギーにかえるビタミンを含んでいるので、食べると短時間でエネルギーになります。

果物

 シークヮーサー、タンカン、パイナップル、スイカ、マンゴー、パッションフルーツ、ドラゴンフルーツなど特産物がたくさんあります。

 (琉球料理保存協会理事長)

(おわり)


 安次富順子(あしとみ・じゅんこ)

 那覇高校、女子栄養大学家政学部卒。1966年~2016年まで新島料理学院、沖縄調理師専門学校(校長)勤務。沖縄伝統ブクブクー茶保存会会長。主な著書に「ブクブクー茶」「琉球王朝の料理と食文化」「琉球菓子」など。


~~ウチャワキ~~

ンムクジソーミン

 ンムクジは、王朝ではクジムチ(くずもち)や丁子餅(小豆餡にンムクジを加え丁子の香りを付けて蒸したもの)などいろいろな王朝菓子にも使われています。一方、庶民の間では保存食品として大いに利用されていました。

 現在姿を消したものに「ンムクジソーミン」があります。ンムクジを水で薄く溶き、バットなどにとても薄く流して蒸します。それをそうめんのように細く切り、ゆでてお汁に入れたり、炒めて食べられていました。コリコリした食感がくず切りに似ています。戦後間もない頃は売り出されていたとのことです。