戦争乗じた強硬論 「核共有」県内に警戒感 有事念頭、緊張高めかねず


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 ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本の核武装論などの発言が自民党幹部から相次いでいる。中国をにらんだ部隊配備や演習の強化が進んできた南西諸島周辺の軍事的緊張をさらに高めかねず、沖縄にとっても見過ごせない議論となっている。台湾有事も念頭に置いた保守派の一連の発言に、県内識者は「旧来の議論を拡散しているだけ」とする一方、世界情勢の不安定化に乗じる形で防衛強化の主張が勢いづくことに警戒感を示す。

 ウクライナ侵攻後の主な安全保障を巡る発言として、「(米軍の核を持ち込んで日本側が運用する)核共有の議論」(安倍晋三元首相)、「尖閣諸島への日本領と示す工作物設置」(高市早苗・自民党政調会長)などがある。こうした主張に、日本維新の会などから同調論も出ている。

 政府は否定

 高市氏は歴代政権が堅持する「核は持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則のうち、「持ち込ませず」の部分について、「有事を想定した対応を日米間でも詰めておくべきだ」と強調。政府の外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」改定と併せ、自民党安全保障調査会での議論を提起した。

 日米は沖縄の施政権返還を合意した1969年の首脳会談で、沖縄に配備していた核兵器を返還時に撤去するが、有事の際には米軍が核を再び沖縄に持ち込むことを認めた秘密合意を交わしていた。

 非核三原則が見直されれば有事の核持ち込みは「密約」ではなくなり、沖縄の米軍基地への核兵器配備につながる可能性が強まる。

 一方で、日本政府は「非核三原則や原子力基本法をはじめとする法体系との関係で議論は行わない」(岸田文雄首相)として、核共有の検討について否定している。米軍の通常戦力と「核の傘」に頼る「拡大抑止」が「現状では不可欠」(岸田首相)との見解も背景にある。

 自民党も16日の安全保障調査会で、専門家を呼んで核抑止力の在り方について勉強会を開いた。だが開催後、政府の国家安全保障戦略改定に向けた党提言に、核共有や非核三原則見直しは盛り込まない方針を確認した。

 核政策の見直しを求める一部議員からの提起に対し、党内にも慎重論は強い。

 領有権

 日本の海上保安庁と中国当局の船がにらみ合いを続ける尖閣諸島を巡っても、強硬論が出ている。高市氏は島への工作物設置で日本政府が施政権を明示し、尖閣の領有権を主張する中国に対抗すべきだと主張した。

 一方、尖閣諸島には日本側が設置した「工作物」が既に存在している。石垣市は1969年に、戦時中に米軍機攻撃を受けた疎開船犠牲者の慰霊碑と行政標柱を設置した。海上保安庁は、政治団体が魚釣島に設置していた灯台を2005年から管理している。

 12年に日本政府が尖閣を国有化して以降、中国政府が周辺海域に公船を派遣して緊張が高まっている。中国側も昨年2月に、海警局に武器使用を可能にした改正海警法を施行した。米中対立の激化もあり、尖閣周辺で偶発的な軍事衝突が起きかねないほど事態がエスカレートしてきた。

 こうした中で政府は昨年9月、尖閣諸島の字名変更に伴って行政標識を設置するためとして石垣市が求めていた上陸申請を、不許可にした経緯がある。

 玉城デニー知事は18日の定例会見で尖閣諸島について、「領有権問題は存在しない」とする日本政府の見解支持を表明した上で、「平和的外交対話を通じて解決を希望する」と述べた。 (塚崎昇平)