【記者解説】沖縄の県民所得どう増やす?外部頼りの面も 県の新・21世紀ビジョン 


社会
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 1日に発表された第6次沖縄振興計画「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」では、1人当たり県民所得が2031年度までに20年度比77万円増の291万円となるなどの展望値を示した。計画期間中に世界レベルの観光リゾート地を形成し、富裕層を多く呼び込み観光収入増につなげることや、各産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進で企業の生産性が向上することを見込んだ。ただ、県の主体的な施策展開というよりも外部要因に頼る面が大きく、実現可能性は未知数だ。

 2012~21年度を期間とする第5次沖縄振興計画で掲げた「総人口」や「労働力」「就業者数」「完全失業率」などの展望値は軒並み達成した。だが、この50年間の沖縄振興計画で描いてきた「自立型経済」の構築はまだ道半ばだ。

 沖縄が日本復帰した1972年度の1人当たり県民所得は約44万円で、1人当たりの国民所得との所得格差は59・5%の開きがあった。復帰後10年ごとに策定されてきた沖縄振興(開発)計画の効果もあり、2018年度の1人当たり県民所得は239万円と、全国との所得格差は74・8%に縮まってきた。とはいえまだ全国の8割に届かない水準だ。

 島嶼(とうしょ)県ゆえの高コスト体質の上、零細企業が多く企業の労働生産性が全国最下位にとどまる。家計の低収入は子どもの貧困問題など、沖縄が抱える深刻な社会課題を生む要因となっている。

 玉城デニー知事は1日の会見で、「コロナ前まで沖縄経済は非常に好調で、非正規から正規雇用に転換し、新規事業を展開しようとした企業も多かったはずだ。振計に沿って丁寧に施策を進めていけば、おのずと経済効果は表れる」と今後の展望に自信をのぞかせた。

 だが、コロナ禍で県経済の拡大をけん引してきた観光産業が激しく落ち込み、低所得世帯ほど景気低迷のしわ寄せを受けるなど、先行きは不透明さが強い。新振計はコロナ前までの既存路線を踏襲した側面が強く、現状のコロナ禍から経済や暮らしを回復軌道に乗せる道筋は見えにくい。

 新計画で示した各種政策が十分に実現できれば達成が見込めるとされる展望値についても、県議会から「より実効性の高い目標値に改めるべきだ」と疑問の声も上がる。県には主体的な施策展開で目標に挑む姿勢が求められる。

(梅田正覚)