桑江氏、公約実現へ「政府とのパイプ」強調 沖縄市長選 野党側は人選難航で苦戦


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3期目の当選を果たした現職の桑江朝千夫氏。「この中心市街地をリノベーションする」と、バスタプロジェクトの計画を訴え続けた=19日、沖縄市の胡屋十字路

 24日投開票の沖縄市長選で、「オール沖縄」勢力が支援した新人で前市議の森山政和氏(73)に1万89票差の大差で勝利し、3選を果たした桑江朝千夫氏(66)は出馬表明から間もない3月、東京で、看板政策の一つ「バスタプロジェクト」の実現に向けて松野博一官房長官に直談判していた。野党陣営が候補者選定遅れで知名度や政策の浸透に苦戦する中、政策の実行力を示すように“政府とのパイプ”を印象付けた桑江氏。その後の選挙戦の行方を決定づけるような瞬間だった。

 「市長選の公約に入れたい。協力してほしい」。出馬表明から数日後の3月9日。桑江氏は上京して松野官房長官と面談し、自身が掲げる胡屋地区の交通結節点の整備「バスタプロジェクト」の実現を要請した。

 面会の約2週間後。沖縄総合事務局が同プロジェクトの調査費計上を発表した。国が計画の具体的検討に入ることを意味し、桑江氏の選挙戦への後押しとなった。プロジェクトで一部再開発される一番街商店街は沸き、「バスタプロジェクト」と書かれた懸垂幕も掲げられ、商店街関係者の間には「桑江しかいない」との空気が漂った。

 4月2日には来県した松野氏が桑江氏の案内で市泡瀬の東部海浜開発事業の現場を視察。その前の2月末に桑江氏が上京し、国土交通省港湾局長に埋め立て事業の予算増額などを要請していた。

 選挙中に東部地区で開いた総決起大会で桑江氏は、事業に向けた国のしゅんせつ予算が倍増したとアピールした。森山氏も泡瀬漁港への「海の駅」整備を公約に掲げたが、桑江陣営は公約の「実現性」を強調し、この地域の支持も固めた。

 昨年には、1期目からの「目玉公約」だった沖縄アリーナを完成させたばかりの桑江氏に追い風が吹く中、野党は当初から厳しい闘いが予想されていた。「向かい風でも勝てるという候補者」(野党関係者)はなかなか見付からず、人選は難航した。

 昨年9月上旬に野党の候補者選考委員会が発足し、同11月までに候補擁立を目指すと確認した。だが桑江陣営も有力な対抗馬と警戒した仲村未央県議のほか、市議らが相次いで出馬を固辞した。

 最終的に候補者が決まったのは、投開票まで3カ月を切った1月末。候補者選考委で事務局長を務める森山氏が「無投票にして市民の意見表明の機会を奪ってはならない」と出馬を引き受ける形で落着した。

 一方、森山氏は9月の任期満了をもって市議を引退する意向を周辺に伝えていた。「たとえ負け戦に出ても彼のキャリアを傷つけることはない」(野党関係者)。候補者として名前が挙がった関係者らの今後の政治キャリアを危惧する本音が見え隠れした。

 森山氏自身は「出馬するからには本気で勝つつもりで臨む」と周囲に支援を要請し、選挙戦では沖縄市の市民所得が県内下位にある実情などを訴え、市政刷新を訴えた。だが自身の掲げた政策が多数の支持を集めるには至らなかった。

 3期を目指す現職と、“引退予定”だった候補者を立てた野党の闘いは、伯仲する様子もなかった。選挙戦は盛り上がらず、過去最低の45.14%という投票率に現れた。市政野党関係者は「知名度も圧倒的に向こうが上。もっと早くから候補者を決め、十分な態勢で臨まなければならなかった」とこぼした。 (石井恵理菜、島袋良太)