「増強は必要」「平和外交努力を」 進む陸自配備、住民投票実施されず<駐屯50年「自衛隊」と沖縄>⑤


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陸自駐屯地建設工事が進む石垣島=27日午後、石垣市

 石垣島の中央に位置する県内最高峰の於茂登岳。石垣市街地から北に向けて車を走らせると、その於茂登岳の山麓に、大型重機がずらりと並ぶ光景が目に飛び込んでくる。与那国島、宮古島に続く先島での陸上自衛隊の駐屯地建設工事だ。

 2018年、市民有志が市自治基本条例(当時)に規定されている有権者の4分の1を上回る1万4千筆余りの署名を集め、中山義隆市長に陸自配備計画の賛否を問う住民投票実施の条例制定を求めた。市側は条例案を市議会に提出したが否決された。2月の市長選でも住民投票の実施が問われたが、結局、大きな争点にはならなかった。

 「(市民は)自衛隊に何の感情も持ってこなかった」

 八重山防衛協会の三木巖会長(80)は、沖縄の日本復帰時、石垣で自衛隊に「反対」を唱える市民は多くなかったと振り返る。そしてその理由として、石垣に米軍、自衛隊の基地がなかったからだと説明する。

 だが近年、市民の間で自衛隊への理解が進んでいると感じる。「急患輸送を受けた市民らが自衛隊に感謝するようになってきている。地道な取り組みの成果だ」

 石垣島を含めた八重山諸島は、日本の最西端にあたる国境の島々だ。中国が領有権を主張する尖閣諸島も、石垣市の行政区域内にある。

 「台湾有事が起これば自衛隊がいようが、いなかろうが、石垣は地政学的に攻撃対象になる。自分の国は自分で守るべきだ。外交努力も必要だが、そのためにも影響力の後ろ盾として自衛隊の増強は必要だ」

 一方、八重山の戦争の歴史に詳しい郷土史家の大田静男さん(73)は石垣への陸自配備に反対の声を上げる。

 大田さんによると、戦前、貧しい時代の八重山の人々には、軍隊への憧れがあった。軍に入ることで技術を学べて給与も入る。当時は、軍帰りの人たちが地域の名士として影響力も持っていたという。

 だが戦争を経験すると、人々の間では軍への恐怖心が生まれた。食料の徴発、マラリア発生地への住民の強制退去―。「軍隊は住民を守らなかった」

 大田さんは外交による平和努力こそが、小さな島が生き延びる道だと訴える。「自衛隊は島を守ると言うが、実際に攻撃されれば島の中ではどこへも逃げられない。結局、愚直に『平和』と訴え続けるほかないんだ」

 (西銘研志郎)
 (おわり)