【識者談話】「新建議書」基地なき沖縄へ、原点に回帰(波平恒男・琉大名誉教授)


社会
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 復帰50年を迎えるにあたり県がまとめた「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新しい建議書」が発表された。平易な言葉でつづられた簡潔な文書だが、県民の思いを過不足なく集約した内容だといえよう。

 同建議書は、1971年の屋良建議書の意義と理念を踏まえた上で、復帰後50年の歴史と現状を振り返り、いまだ残る課題と摘記し、そして今後のあるべき沖縄像を提示して、県民の民意を尊重した振興や発展に向けて政府に建議している。

 新建議書では、「平和で豊かな沖縄」という将来像が強調されるとともに、72年の復帰に際し日本政府が発表した声明には「沖縄を平和の島とし」、アジア・太平洋地域の新たな交流拠点とすることが「沖縄の祖国復帰を祝うわれわれ国民の誓いでなければならない」と記されていたこと、すなわち50年前には「沖縄を平和の島にする」という目標が共有されていたはずだということを指摘し、政府や国民にその原点に立ち返ることを求めている。

 国会や県議会の意見書決議案に比べて特徴的なのは、「現在政府が進めている辺野古新基地建設は、県民に新たな基地負担を強いるものであります」と、辺野古移設の断念要請にまで踏み込んでいることである。基地負担の軽減が半世紀経っても遅々として進まなかっただけでなく、民意を顧みず民主主義や地方自治、法の趣旨を歪(ゆが)めてまで建設を強行する現在の政府の対応も批判している。

 仮に復帰50年が単なるセレモニーのみに終わったとすれば、いかに寂しいものになったか。その意味で、建議書作成を決め意見集約に携わった関係者の労を多としたい。

(政治学)