基地、経済、地位協定、東アジア…沖縄県の新建議書を四つの視点から読み解く


社会
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【全文はこちら】>>平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書

 

基地の整理縮小 負担増 改めて拒否

 玉城デニー知事は「屋良建議書」でも掲げられた「基地のない平和の島」の希求を、今回の建議書でも再び掲げた。県内の米軍専用施設面積の全国に占める割合が復帰時よりも増加し、米軍関連の事件・事故が絶えない現状や、返還跡地の発展などが背景にある。米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設計画は「県民に新たな基地負担を強いるもの」だとして、改めて断念を政府に求めた。

 建議書では、復帰当時「沖縄を平和の島にする」という県と政府の共通目標があったと強調。一方で米軍専用施設の全国に占める割合が復帰時の58・8%から70・3%に増加したとし、「目標はいまだ達成されていない」と指摘する。

 辺野古新基地建設を巡っては、2019年に実施された埋め立ての賛否を問う県民投票で投票者の7割超が反対の意思を示すなどしたが、政府は工事を続けている。

 今回の建議書で県は、民主主義や地方自治の観点から政府に計画の再考を促した。だが玉城知事の設計変更申請不承認を巡って県と政府は現在進行形で対立しており、両者の溝は深い。

 「基地のない平和の島」を掲げる一方で、南西諸島への陸上自衛隊配備などの自衛隊強化の動きには触れなかった。会見で玉城知事は「専守防衛という名目における組織としての自衛隊を私は認めている」と説明。「基地を必要としないあるべき沖縄の姿を目指す」としつつ、米軍基地の負担軽減を最優先課題に位置付けたとした。

 (大嶺雅俊)


 

日米地位協定 時代にそぐわぬ障壁

 沖縄県は建議書で「構造的、差別的ともいわれる沖縄の基地問題の早期の解決」を求めた。特に米軍に特権的地位を付与する日米地位協定について、玉城デニー知事は会見で「構造的な障壁がある」と指摘した。建議書でも、地位協定は締結された1960年から一度も改定されていないとして「時代の要求や国民の要望にそぐわないものとなっている」とする。

 建議書では、地位協定の課題として米軍機の低空飛行による騒音被害や米軍基地に由来する新型コロナウイルスの感染拡大を挙げ、全国から抜本的見直しを求める声があるとし、改定を強く訴えた。

 県は、他国が米国と結ぶ地位協定と日米地位協定との比較調査を実施し、調査報告書をまとめるなどして、改定に向けた「理論武装」や機運醸成を図ってきた。全国知事会も2018年から改定を提言している。

 県議会では、政権与党で県政野党の自民会派も含め全会派が、地位協定の抜本改定を求めている。

 一方で政府の反応は薄い。今年1月の衆院本会議での代表質問で岸田文雄首相が「見直しは考えていない」とするなど、消極的な姿勢を崩していない。

 沖縄の日本復帰50年に当たって4月28日に衆院で可決された決議でも地位協定の見直し・改定には踏み込んでおらず、沖縄と政府・国会の間に高い「壁」があることが浮き彫りとなった。

 (大嶺雅俊)


 

自立型経済の構築 海洋政策拠点目指す

 玉城デニー知事は、復帰から50年を経てもなお道半ばの「自立型経済の構築」に向け、独自の歴史や風土から育まれた歴史や文化などの「ソフトパワー」を生かし、経済発展を遂げるアジアの結節点になることを掲げた。広大な海域を有する県として、「海洋政策の拠点としても期待される」と強調した。

 ただ、新型コロナウイルスの長期化により、第3次産業の比率が高い県内経済のもろさが露呈したと説明。引き続きリゾート地としての魅力を高めつつ、臨空・臨港型産業などアジアに近い立地を生かした新たな産業の育成や域内経済の循環率を高める取り組みも必要とした。

 一方、本土では戦禍を被った鉄道は旧国鉄などにより復旧が進められたが、沖縄戦で壊滅した県営鉄道の復旧は米軍施政下にあったため行われなかった。そのため現在は車依存社会となり「特に人口や、物流などの産業活動が集中する中南部都市圏の交通渋滞は深刻」と窮状を訴えた。

 自立型経済構築が道半ばなのは、景気変動の影響を受けやすい第3次産業中心の産業構造が要因と指摘する。製造業と比べて労働生産性や賃金水準が低い傾向にあるなど構造的な問題を抱える。

 第3次産業が中心となったのは、日本復帰までの27年間、米施政下に置かれた特異な歴史が根底にあると訴える。1955年ごろから高度経済成長に突入した全国の発展からは取り残されたことに加え、米軍が基地建設などを通じて莫大な外貨を落としたことから基地依存型の脆弱(ぜいじゃく)な産業構造に陥った経緯を説明した。

 玉城知事は「農林水産業や製造業など移輸出により外貨を獲得する生産部門がほとんど育たず、サービス業など域内産業に偏った産業構造となった」と強調した。

 (梅田正覚)


 

東アジアの安定化 抑止力強化をけん制

 ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに台湾有事への懸念が高まり、一部では防衛力の強化を求める議論も出ている。建議書では「米軍基地が集中しているがゆえに沖縄が攻撃目標とされるような事態は決してあってはならない」と、けん制する文言を盛り込んだ。

 玉城デニー知事は「県としては、軍事力の増強による抑止力の強化がかえって地域の緊張を高め、意図しない形で発生した武力衝突などがエスカレートすることにより本格的な軍事紛争につながる事態を懸念している」と強調した。

 政府に対して、武力によらない平和的な外交と対話によって緊張緩和と信頼醸成を図ることを求めた上で、歴史や文化でアジアと近い沖縄を地域間交流に生かすことも提案した。

 (梅田正覚)