<Life・子ども>沖縄の子の貧困を考えるシンポ 社会全体で子ども守ろう


この記事を書いた人 外間 聡子

 「沖縄の子どもの貧困を考えるシンポジウム」(沖縄市子ども施策研究会主催)が23日、沖縄市市民会館中ホールであった。子どもの貧困問題に長年取り組んできた千葉明徳短大教授の山野良一氏と、沖縄の子どもの諸問題に幅広い知見を持つ沖大名誉教授の加藤彰彦氏が登壇し、保育料や教育費などを公費で十分に補うような社会保障制度への転換、小中学校区単位での居場所づくりなどを提案した。自治会長や地域で子育て支援に携わる関係者が来場し、沖縄特有の課題をひもときながら改善に向けた方策を考えた。

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加藤彰彦氏 沖大名誉教授

加藤彰彦氏 沖大名誉教授/校区単位で居場所づくり

 貧困には三つの要素がある。まずは経済的な貧しさがあり、次に困窮であるがゆえに生じる孤立。その先に、自信ややる気、希望を失う状況がある。

 2003年に北谷町で当時中学2年生の男子生徒が仲間から殺される事件が起きた。この子どもたち自身が貧困状態だったといわれている。最近は宮古島市で若い父親が娘を殺してしまう事件があった。加害側の父親も貧困など大きな問題を抱えていたと思う。(事件を)生んでしまう背景を解決していかないと(類似する事件は)また起きてしまう。

 子どもたちを支える仕組みづくりは、小さい地域で取り組んだ方がいい。福岡県春日市の「特定非営利活動法人ワーカーズコープ春日事業所」の活動を紹介したい。貧困にあって子どもが孤立する状態をなくし、地域から教育を変えようと、市長が自治会を訪ね回った。6年前から、市が指定管理を「ワーカーズコープ」に委託して児童センターの運営を始めている。

 センターへ通えない子どもたちのために「ひまわり」という事業所も開設され、子育て中のお母さんや高齢者の集まる場所になっている。その中で子どもたちは、赤ちゃんのお世話をするなど役割を持っている。立場の異なる人たちの中で、不登校の子どもたちがさまざまなことを発見し、体験している。

 沖縄でも子どもや若者を中心に、高齢者や障がいのある人も集まれるような居場所を小中学校区で一つずつつくってはどうか。

 貧困状態にある家庭への介入が難しいといわれている。つらい出来事、困難さは誰もが抱えている。(支援者には)一緒になって解決していこうという感覚が必要ではないか。貧困を当事者の自己責任ととらえず、周囲との関係性をつくり変える視点が大事だ。

 子どもたちをきちんと育てられるような社会制度を作り直す活動に本気になって取り組む必要がある。国の予算は苦しんでいる子どもたちのために十分使えるはずなのに、軍事費に使うのはおかしい。子どもたちの未来のため真剣に活動していきたい。

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山野良一氏千葉明徳短大教授

山野良一氏 千葉明徳短大教授/予算増やし子育て支援を

 昨年7月に発表された子どもの貧困率は16・3%(2012年時点)で、6人に1人が貧困状態にある。少子化で子どもは50万人も減ったが、貧困な子どもは5万人増えている。日本はひとり親家庭の貧困率が高く、ワーキングプアに陥っている家庭も多い。貧困な子どもを持つ家庭の所得の中央値は、親子4人世帯で年額176万円、月額で15万円足らずだ。

 先進国では「相対的貧困」の概念を使うことが多い。人並みのおしゃれができない、修学旅行に参加できない子どもや若者は、取り残される感じになってしまう。貧困というだけでいじめや差別が生まれるかもしれない。自分が困っていることを知られたくないので、結果として孤立しがちになり、本当に独りぼっちで貧困に陥ってしまう。

 貧困の背景に二つの問題がある。日本はGDPに占める児童手当や児童扶養手当など「現金給付」や「現物給付」の割合が、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも少なく、子育て世代が支援されていない。また、国民健康保険の保険料が所得に応じた金額になっていないため、低所得者の人にとっては保険料が非常に高い。保育所や児童養護施設にも十分なお金を掛けてこなかった。

 貧困問題は日本の中で長年、関心を持たれてこなかったが、最近は社会で見えるようになってきた。保護者の仕事の問題も考えないといけないが、税金の使い方を考える時代に来ている。貧困問題は、社会全体で子育て家族をどう支えるかを考えるきっかけにできるだろう。

 保育料が無料で、教育に掛かる費用が低減されるなど育児にお金が掛からない社会になれば、所得が低くても子育てができる。ところが日本は親任せだった。社会保障制度を作り直す必要がある。豊かな日本の中で、子どもの貧困問題を解決できないのはおかしい。

 軍事費にお金を掛けず、子どもたちに掛けることを考えてもいい。沖縄では子どもの貧困問題と戦争、沖縄の基地問題はつながっていると思う。そのあたりを提示していくことも大事ではないか。