街角にたたずむ歴史 西銘研志郎・八重山支局


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written by 西銘研志郎(八重山支局)

 先日、県外で働いていた頃に親しくしていた友人の結婚式に招かれ、東京へ行った。結婚式後、石垣島へ帰るまで時間があったので「本の街」として知られる東京・神田神保町に向かい、街のシンボルとして親しまれてきた三省堂書店神保町本店に行ってみた。

 知らなかったのだが、私がたまたま訪れた日が神保町本店ビルの建て替え前、最後の営業日だった。多くの人が店の前で足を止め、名残惜しそうに建物の外観を写真に収めていた。

 その中に、男性の遺影を手に、写真を撮ってもらっている高齢の女性がいた。

 どうして遺影を手にしているのだろう。疑問に思った私は、その女性に尋ねてみた。なんでもその女性の夫が、ビルの設計に携わったらしい。女性は「建て替え前に一緒に写真が撮りたかったの」と寂しそうに答えた。建物は人々の営みの一部になり、街の歴史になるのだと感じた。

 沖縄が日本に復帰して50年がたった。復帰後に生まれた私にとって、復帰前の沖縄は想像の中にしかない。この50年間で沖縄の街も大きく変わったことだろう。だが中には、復帰前と変わらず建ち続けている建物もあるはずだ。

 長い歴史を刻んできた建物たちは、この50年をどう見てきたのだろうか。もちろん建物にインタビューはできないが、なんだか話を聞いてみたくなる。「昔よりよくなったさ」と答えてくれるだろうか。

(石垣市、竹富町、与那国町担当)


ゆんたくあっちゃー 県内各地を駆け回る地方記者。取材を通して日々感じることや裏話などを紹介する。