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ウクライナの武器管理 危うい無際限の提供<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 米国務省によると2021年9月から今年6月1日までに米国からウクライナに提供された武器は以下の通りだ。

 <1400以上のスティンガー対空システム。/5500以上のジャベリン対空兵装システム/14000以上のその他の対装甲システム/700基以上のスイッチブレード戦術無人航空機システム/155mm榴弾砲90門と155mm砲弾184000発。/155mm榴弾砲を牽引する戦闘車72台。/Mi―17ヘリコプター16機/数百台の装甲高機動多用途車輪型車両。/M113 装甲兵員輸送車 200台。/7000以上の小火器/50000000発以上の弾薬。(以下略)>(6月1日、米国務省HP)

 ウクライナ軍による武器の管理に不安があり、闇市場に流出する可能性が懸念されている。ついにインターポールが動き始めた。

 <国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)のユルゲン・ストック事務総長は1日、ウクライナに供与される武器の一部が紛争終結後、欧州をはじめとする世界の犯罪組織の手に渡る恐れがあるとし、武器追跡データベースを活用した監視に着手するよう加盟各国に呼び掛けた。/「こうしている間にも犯罪者はすでに(ウクライナに供与された武器に)目を付けている」/ストック氏は「重火器ですら闇市場に出回るようになるだろう」と警告。「われわれには武器に関する情報を共有するデータベースがある。いずれの国・地域も単独では対処できないため、それを活用するよう加盟国に促しているところだ」と述べた>(2日、AFP)

 軍備管理の専門家は、米国をはじめとするNATO加盟諸国から提供された武器を十分に管理する能力がウクライナに欠けていると考えている。そもそもウクライナには正規軍以外に地域ごとの郷土防衛隊がある。マリウポリの防衛にあたっていた「アゾフ連隊」も郷土防衛隊の一つだ。郷土防衛隊は、地方の軍閥のようなもので、キエフからの一元的指揮命令に服しているとは言えない。ウクライナ戦争終結後、地方軍閥が持つ武器が闇市場に流れ、犯罪組織や外国のテロ組織の手に渡る可能性は排除されないのである。

 何か対策がとれるのだろうか。事態はかなり厳しい。<以前からウクライナの武器管理については疑義が呈されており、米軍の監査部門は2020年、ウクライナに供与された武器の監視体制を問題視していた。/米NGO、紛争市民センター(CIVIC)のアニー・シール氏は、「ウクライナに武器を送っている米国や他の国々は、市民を保護するために、どのようなリスク緩和や監視の措置を取っているのかに関して透明性を著しく欠いている」と批判する。/同団体は、武器を供与した後に追跡する必要性があると訴える。だが、武器管理の専門家は、紛争地で武器の行方を追跡するのはほぼ不可能との見解を示している>(5月27日、AFP=時事)。

 2月24日にロシアがウクライナを侵攻する以前から、ウクライナの武器管理体制には深刻な欠陥があったのだ。今後、どのようなことが起きうるか。

 <あるフランス軍幹部は、ウクライナで華々しい戦果が伝えられた対戦車ミサイル「ジャベリン(Javelin)」を引き合いに、起こり得るシナリオを開陳した。「ジャベリンを持った銀行強盗が出現すれば、泣きを見ることになるだろう」>(前掲、AFP=時事)。

 いつまでも続く戦争はない。ウクライナ戦争後、武器が犯罪組織に流出し、ジャベリンを持った銀行強盗が現れるような事態を防ぐためにも米国は、無際限にウクライナに武器を提供するという方針を改めるべきだ。

(作家・元外務省主任分析官)