沖縄「世替わり」研究者らが議論 武漢大日本センターが復帰50年でシンポ 


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オンラインシンポジウムに参加する沖縄や中華圏の研究者ら(林泉忠氏提供)

 中国の武漢大日本研究センターはこのほど、沖縄返還50年を記念して「琉球・沖縄『世替わり』の歴史と東アジア国際秩序の変遷」と題したオンラインシンポジウムを開いた。沖縄のほか中国本土、台湾、香港から研究者約30人が登壇し、沖縄の近現代史について議論を深めた。

 沖縄からは琉球大名誉教授の上里賢一氏や我部政明氏らが登壇した。我部氏は沖縄の日本復帰から50年の歴史を振り返り「施政権返還後から50年を経過しても、在日米軍基地の配置における沖縄依存は変わりはない」と指摘した。

 文化面では県教育庁の山田浩世主任が琉球王国の外交文書集「歴代宝案」の編集事業を紹介した。山田氏は外交資料の琉球処分や沖縄戦に伴う散逸・消失の経緯に触れて「写本を活用し、中国や台湾の研究者の協力を得ながら作業を完了させた」と報告した。近年のデジタルアーカイブの動向についても報告した。

 中国本土のほか、台湾・香港など中華圏からは日本・沖縄の研究者らが登壇し、政治や文化など多方面の報告をした。中国社会科学院文学所研究員の孫歌氏は「沖縄の民主的『和平政治』」と題して報告した。沖縄の人々の基地への異議申し立てが非暴力で行われてきた経緯に触れ「国際政治におけるジャングルのおきて(弱肉強食)に疑問を投げかけている」と提起した。

 北京語言大の関立丹教授は1970年のコザ騒動を描いた文学作品について報告した。関氏はコザ騒動がベトナム戦争下で米兵の事件事故に対する沖縄の人々の反発が強まっていた背景で起きたことに触れ、文学作品が「作家の人生や考えを踏まえて、沖縄の人々の怒りが反映されている」と分析した。

 シンポジウムは武漢大日本研究センターの林泉忠センター長が企画した。林氏は2002年から12年まで琉球大准教授を務め、台湾の中央研究院などを経て、19年から武漢大日本研究センターに所属している。沖縄、香港、台湾を「辺境東アジア」と名付け、各地域での人々のアイデンティティーと政治の関係性を研究してきた。

 林氏によると、中国本土における沖縄研究は1879年の琉球併合(「琉球処分」)までの中琉関係が中心で、明治期以降の沖縄に関する研究は不足していたという。「日米中の3つの大国の間で、琉球・沖縄は『世替わり』を経てきたが、近代以降の歴史は中国ではそれほど知られていなかった」と語る。

 シンポジウムは約200人がオンラインで視聴・参加した。「中華圏最大の沖縄関係のシンポジウムとなり、本格的な沖縄研究の発展につながるだろう」と期待した。

 シンポジウムで、沖縄の研究者からは「さまざまな視点での議論が展開できた」との声が上がり、中国側からは「沖縄社会の実情への理解を深めた」と感想があった。「欧米の沖縄研究との交流も必要だ」との意見も出た。

 林氏は「沖縄と中国社会の相互理解」も目標に掲げた。近年の県民意識調査で、9割前後の県民が中国に「良くない印象を持っている」との印象を持っていたことを挙げて「沖縄社会は中国に歴史的・文化的に親しみを持っていたが、必ずしも現代中国に同じ感覚は持っていない」と分析する。他方、沖縄の現状は中国社会に伝わっていないといい「シンポジウムが相互理解・相互信頼の再構築・再建につながれば幸いだ」と述べた。

(塚崎昇平)