HIV、経済的理由で放置も 沖縄県内の検査、コロナで縮小続く 医師が語る公費補助や検査拡充の必要性


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なしろハルンクリニックの名城文雄院長

 かつては「死の病」と呼ばれたエイズ。だが現在の医療では、HIV(エイズウイルス)に感染しても早期発見、治療をすれば1日1回の抗HIV薬の服薬のみでエイズの発症を防ぎ、日常生活を送れるようになった。県は従来、県内全6カ所の保健所でHIVや梅毒など性感染症の検査を無料・匿名で実施していた。だが新型コロナウイルス対応のため2020年7月から1年以上にわたって休止。その後再開したものの再び休止し、現在は那覇市保健所のみ検査を実施している。

 現在保健所以外で検査を受けられるのは、6カ所の民間医療機関のみ。このうちの一つで、2014年の開業以来、性感染症の検査をしてきたなしろハルンクリニック(浦添市)院長の名城文雄医師に、HIVを取り巻く現状や早期発見・早期治療につなげるために必要な取り組みについて聞いた。 (聞き手 嶋岡すみれ)

 ―コロナ禍で変化したことは。

 「2014年の開業当初はHIV陽性者は全くいなかったが、ここ2~3年は毎年当院でも複数の陽性者が出ている。これまで性感染症ハイリスクの方は自発的に保健所で定期検査をしていた人が多いが、コロナ禍で検査が受けられなくなり、症状が悪化して初めて医療機関を受診する傾向がある」

 ―検査を受けやすくするために必要なことは。

 「現状は医療機関での検査は全額自費となるため、経済的な理由から症状が悪化するまで放置している方も多い。コロナの感染状況が落ち着くまでの期間だけでも、医療機関の検査の一部を公費で補助していただき、患者の負担を軽くしてほしい。例えばHIVと梅毒の検査を医療機関で受けた場合は初診料と検査料、診断料で約6千円かかる。無症状でも感染のリスクがある場合、保険診療で受けられる形にすれば3割負担の2千円ほどで済む」

 「また現在HIV検査をしている医療機関が少ないため、検査を受けられる環境を整えていく必要がある」

 ―環境を整えるために必要なことは。

 「病院側のHIVへの偏見や感染への不安などから受け入れのハードルが高いのも要因の一つと考えられる。医療従事者が針刺し事故などでHIVに感染してしまうリスクはC型肝炎、B型肝炎などと比較してかなり低いとされている。肝炎の検査は行っているにもかかわらず、HIV検査を行わないのはおかしいと感じる。医師会を通して医療機関へ情報提供を行い、HIV検査への抵抗感をなくすようにする必要がある」

 ―予防法は。

 「性感染症は風邪やインフルエンザなどと同じように、誰にでも生じる可能性がある健康問題だと言える。コンドームを正しく着用することで感染を防げる可能性は高くなる」

 「性感染症の基本的な知識を理解していない人も多いと感じる。感染しても無症状の場合が多いことや、オーラルセックスでも感染することなど、中学、高校などからの性感染症に関する教育も必要だと感じている」


死因の29%メンタル 社会の偏見なお根強く

 国連合同エイズ計画の推計では、日本でエイズウイルス(HIV)に感染している人は約3万人に上る。厚生労働省エイズ動向委員会によると昨年、新たに感染が分かった人は約千人だった。

 HIV感染症の治療薬は着実に進歩を遂げてきた。現在は複数の薬剤を併用する抗レトロウイルス療法が基本。1錠に2~3種類の成分が入った配合薬もあり、「1日1回1錠服用」という治療が可能になっている。

 「亡くなる人は減った。残された重要な課題の一つは患者さんのメンタルヘルスの問題だ」。国立国際医療研究センターのエイズ治療・研究開発センター(ACC)でセンター長を務める岡慎一医師はそう指摘する。

 ACCに登録されたHIV感染者で2014~19年に亡くなった105人の死亡原因を調べたところ、最も多かったのは自殺などメンタルヘルス関連(29%)だった。

 治療を継続し血中のウイルス量が検出限界値未満の人が他の人に感染させる可能性は一切ないのだが、社会の偏見は根強い。服薬のたびにHIVに感染していることを思い出し「それがボディーブローのように効いてくるという」と岡さん。

 そんな中、1カ月または2カ月に1度の投与でウイルスの抑制を維持できる注射薬のカボテグラビルとリルピビリンを製薬会社ヴィーブヘルスケアが6月27日に発売した。

 岡さんは「治験では患者さんの満足度も高かった。メンタルヘルスを重視した新たな治療法となることに期待している」と話している。(共同通信)