構造的な性暴力を指摘 復帰前からの現在までの女性や基地を巡る問題で意見交わす オンラインで公開講座


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登壇した(右から)高良沙哉さん、高里鈴代さん、宮城公子さん=7月16日

 大学コンソーシアム沖縄の県民向け公開講座「女たちの『復帰』50年」の第1回目が7月16日、オンラインで開催された。「沖縄の女性の人権」と題して、元那覇市議会議員で強姦救援センター・沖縄「REICO」代表の高里鈴代さんと、沖縄大教授の髙良沙哉さん(ジェンダー憲法学)が登壇した。司会を務めた沖縄大教授の宮城公子さん(ジェンダー学)と共に、復帰前から現在までの女性や基地をめぐる問題について意見を交わした。内容を詳報する。(嶋岡すみれ)


日米同盟下で構造化 高里鈴代さん 強姦救援センター沖縄代表
 

 元那覇市議会議員で強姦救援センター・沖縄「REICO」代表の高里鈴代さんは沖縄の女性に対する構造的な性暴力を指摘した。

 高里さんによると、沖縄では戦後、米軍基地周辺に売買春地域が形成された。1969年3月の調査では、売買春関連で働く女性は約7400人いたとされ、彼女たちは貴重なドルの稼ぎ手として沖縄経済を支えた。一方で、そうした女性たちが米兵により殺される事件も多発した。

 売春防止法は日本から遅れること14年の70年に成立し、72年に施行された。だが立法院は女性の心身を搾取する業者を糾弾しながらも米軍の撤退要求はしなかった。「施行までの2年の猶予に琉球政府の強い不安感が見て取れる。彼女たちは米兵の性暴力の受け皿であり、稼ぐドルが沖縄経済にとって必要だったからだ」と女性たちに依存していた基地経済の問題を指摘した。

 復帰後も全国面積の0・6%の沖縄に米軍専用施設の70%以上が集中し続け、米兵による事件事故が相次ぐ。ヘリパッド建設や辺野古新基地建設の強行、オスプレイ配備など軍事機能が強化され続けていることから「復帰は沖縄に基地と軍隊を留め置くための第二の天皇メッセージだったのではないか」と考察した。

 また性暴力事件が起こると被害者を批判する声が上がる現状について「(被害者に対して)『なぜそこに行ったのか』とバッシングが起こる。沖縄社会の性差別意識の根深さがある」と問題視し「性暴力は日米の同盟関係から起こる構造的な性暴力だ。憲法の行使を求め、声を上げていこう」と訴えた。


人間の尊厳、実現されず 髙良沙哉さん 沖縄大教授(ジェンダー憲法学)
 

 沖縄大教授の髙良沙哉さん(ジェンダー憲法学)は、復帰前に沖縄の要望をまとめた「復帰措置に関する建議書」(屋良建議書)の中の女性の位置付けをひもといた。建議書の中には女性についての記述がほとんどなく「建議書の中で女性はそこまで重きを置かれていなかったように見える」との見方を示した。

 一方で基地があることから派生する人権侵害の一つとして「婦女子が殺傷、暴行されたり」と記されていることから「基本的人権の保障や基地の整理縮小を求める建議書の原動力の一つとして、女性に対する暴力があったのではないか」と分析した。

 また米兵による性犯罪の背景には「『戦勝国』の軍人による沖縄という『異民族』の女性に対する性暴力」という意味があるとし、「沖縄の女性や子どもたちは(米兵にとっての)『戦利品』としての構造的な性暴力と隣り合わせで生きていた」と指摘。「基地の偏在が招く弊害は解消されないといけない。沖縄は憲法の下に復帰したが、人間の尊厳や平和のうちに生きる権利といった根源的な価値がまだ実現されていない」と訴えた。 

 さらに家族関係における個人の尊厳と両性の平等を定めた憲法24条を紹介し「非暴力な社会を目指すとき、大きな軍隊に目を向けるだけでなく、個人の尊厳や両性の平等を社会の中でつくっていくことが、先々の軍事主義的なものを否定することにつながっていく」と語り「沖縄の平和運動はずっと非暴力で貫かれてきた。沖縄から非暴力な社会を目指していける要素は多くあるのではないか」と提起した。


質疑応答

女性議員増へ環境整備を 髙良
基地がある理由見据えて 高里

 

 講演の後にはオンラインで寄せられた質問に登壇者が回答した。一部を紹介する。

 「女性の政治家を増やすためには」という質問に対して、髙良さんは「議員の働き方を聞くと、例えば女性が子どもを育てながらできるような仕事ではなかったりする。働き方の問題を含めて大きな転換が必要だと思う」と答えた。

 また7月に行われた参院選で女性が過去最多当選したことに触れ「必ずしも男女平等になったから女性が増えたというわけではない。日本では衆議院より下に見られる参議院で、女性や芸能人など、見た目で投票しやすい人を多く登用して議席を温めるような政党もあり、かえって女性を利用した側面もあると思う。対等な立場で女性が出て行ける社会環境を整える必要がある」と話した。

 「県民の約6割が基地を容認している」とするアンケート結果の理由を問う質問について、高里さんは「基地はある意味ではなじんだ風景になっている。だがその目的はなんなのか、ここに設置されなければならない、沖縄が受け継いでいかなければならない理由を考えると、『そこで働いている人がいる』というだけの問題ではない。そこで働く人ができる、もっとちがう産業や働く場がつくられるべきだ」と指摘した。


 当日の様子は動画投稿サイト「ユーチューブ」で21日まで見ることができる。動画は沖縄大HPから。同講座の2回目は9月24日にオンラインで開催される。問い合わせは沖縄大地域研究所(電話)098(832)5599。