【深掘り】電気料金の上限撤廃へ 沖電の最大赤字予想 企業の負担必至、脱炭素取り組みに支障も


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 想定外の燃料高が沖縄電力(浦添市)の経営を揺るがしている。7月29日に発表した2022年度連結決算の経常損益は通期で400億円の赤字を予想し、同社は一部の電気料金の上限を撤廃する方針を決めた。今後の電気料値上げは、新型コロナウイルス感染拡大の影響から回復の兆しが見えてきた県内企業に新たな負担となるのは必至だ。財務悪化の影響が長期化すれば脱炭素の取り組みなどにも支障が出かねない。

 通期で赤字になれば、1994年の連結決算導入後初めて。沖電単体では第2次石油危機があった80年度以来42年ぶりで、赤字幅は過去最大を見込む。

 「燃料費調整制度」(燃調)で燃料費の上昇分は電気料金に転嫁できるが、消費者負担を抑えるため上限が設けられている。沖電の一般家庭向け電気料金は平均的なモデルで21年4月が6951円だったが、22年4月は8823円と1年間で27%上昇し、転嫁できる上限に達した。

 家計や企業も燃料費高騰の負担を被ってきたが、料金転嫁の上限を超えた現在は超過分を沖電が自己負担しており、赤字が累積的に膨む局面にある。

 電気料金メニューには「規制料金」と「自由料金」があり、沖電の販売量はこの2種類が半分ずつの割合を占める。同社は柔軟に設定できる自由料金のうち、工場や商業施設、病院などで使われる高圧電力以上の価格の上限を11月以降に撤廃すると決めた。

 家庭向けを含む規制料金は国の認可が必要で、上限が見直されるハードルは高い。「国の審議会で議論される規制料金に対して、われわれが軽々に何かを求める立場にはない」(沖電関係者)。歴史的な燃料高と円安が経営を襲う未曽有の事態に苦渋もにじむ。

 11月以降の高圧電力以上の上限撤廃で値上げが避けられない県内企業は頭を抱える。

 沖縄都市モノレール(ゆいレール)は21年度、コロナで観光客が減少したことを踏まえ20年度比で減便したが、電気料金の上昇で、車両を走らせるための動力費は約2千万円の増加となった。今年4~6月の動力費も5580万円と、21年同期(4280万円)に比べて3割増になっている。

 電気料金が上がれば、コストはさらにかさむ。モノ社の武元清一総務部長は「ある程度の上げ幅や影響が明らかになれば、経営計画の見直しや県など関係機関への支援のお願いも検討することになる」と説明した。

 製造業にも懸念が広がる。県工業連合会の古波津昇会長は「製造業にとって不可欠な電力を供給する会社が赤字となり、経営が不安定では困る」と強調。「業種によって契約内容も使う電力量も異なる。沖電からの説明を聞いて、なるべく影響を最小限に抑えるよう議論していかなければならない」と付け加えた。

 沖電は3月に発表した25年度に向けた中期経営計画で、二酸化炭素排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現に向けた道筋を示した。再生エネルギー主力化に60億円を投資すると打ち出したばかりだが、財務悪化が投資の停滞をもたらす可能性もある。

 琉球大の千住智信工学部教授(電気工学)は「全国の電力会社が燃料高と円安で似た状況に置かれ、電力業界も不確実性が増している」と指摘した上で、輸入に頼る化石燃料への依存を脱するために「カーボンニュートラルの取り組み加速はますます必要になる」と語った。 (當山幸都)